1. 自身の論文になりそうなネタ(公開できる範囲で)
以前ご紹介したNeutrophil Gelatinase-Associated Lipocalin for Acute Kidney Injury During Acute Heart Failure Hospitalizations (The AKINESIS Study)の最初の報告は、血中NGAL上昇が入院後のworsening renal functionを予測するか否かを調べた研究です(結果はクレアチニンと比較して優位性なし)。より腎障害に特異的とされる尿中NGALに関しては分析結果の遅れのためまだ報告されておらず、ようやくそろそろsubmitという段階です。
2. 今後の注目しているトピック
現在私は主に急性心不全のデータベースを用いて、複数のバイオマーカーの推移と予後との関係を探索しています。
以前のレポートでも触れたとおり、急性心不全の薬物療法の大きな二つのトライアル(RELAX-AHF2とTRUE-AHF)において新規薬剤が予後改善をもたらしませんでした。急性心不全の治療ひいては急性心不全という疾患概念そのものにパラダイムシフトがおきかけている状況です。極論ですが、そもそも急性心不全は慢性心不全の増悪を見ているだけであり、治療の主なターゲットはあくまで慢性期である、という考え方です。
慢性期治療はネプリライシン阻害薬や、まだ検討が必要ですがSGLT-2阻害薬、さらに心房細動のアブレーションなど、予後改善に結びつく新たな治療が認められ始めています。急性期の効果が不確かな治療に注力するよりは、まずはこちらをしっかりと実践しようと考えるのはもっともな事であると思います。ネプリライシン阻害薬のHFpEFに対する効果、SGLT-2阻害薬の心不全患者における有用性、心房細動のアブレーションの適応など、これらのエビデンスの広がりも興味深いところです。
一方で急性心不全から少し目を広げて、亜急性心不全ととらえて入院前の軽度な増悪を治療のターゲットと捉える考え方もあります。こちらも肺動脈圧モニタリング機器の有用性などを鑑みると、HFrEF, HFpEFに関わらず期待される手段であると考えます。
また、入院中のガイドライン・エビデンスに基づいた薬物療法の遵守や、生活指導、さらに退院直後で再入院リスクの高いvulnerable phaseをどのように乗り切るか、ということも重要なトピックだと思います。入院直後の急性期のみでなく、その後の亜急性期を大切にしようという考え方だと言えます。日本の心不全入院期間は欧米に比して長期であることが知られていますが、薬剤調節や患者教育に注力できるという面ではメリットがあるのかもしれません。