1.冠動脈CTとは
2.冠動脈CT施行時の注意点
3.冠動脈CTの撮影と撮影後処理
4.冠動脈CTから得られる情報と特徴
5.論文紹介
1. 冠動脈CTとは
冠動脈CTは、短時間に結果が得られる非侵襲的検査であり、外来検査が可能である。空間的解像度は心臓MRIよりも高く(冠動脈CT:0.2~0.5 mm、心臓MRI: 0.6-1.2 mm)、冠動脈の詳細な形態評価に適している。冠動脈CTの使用方法としては、①冠動脈疾患を疑う患者のスクリーニングやリスク評価、②経皮的冠動脈形成術(PCI)術前のストラテジー作成、③PCI術後のステント評価、④心臓バイパス手術(CABG)後のバイパスグラフト評価、⑤心臓の全体的な解剖の把握(カテーテルアブレーションや先天性心疾患)などがある。
2. 冠動脈CT施行時の注意点
① 造影剤アレルギー:前投薬(ステロイド)の必要性
② 喘息患者:βブロッカーの使用・造影剤の使用による喘息発作誘発の可能性
③ 経口糖尿病薬(ビグアナイド)使用中の患者:腎機能の確認が必要である。2016年のSCCT(Society of cardiovascular computed tomography)のガイドラインでは、乳酸アシドーシス発症のリスクのため、造影剤使用後48時間の投与中止が勧められている。CT前のビグアナイド中止は過去に行われていたものの、それを支持するエビデンスはないと記載される[1]。
④ 小径のステント:一般的に2.5 mm以下の径のステントは、内腔評価困難である。
⑤ 被曝量について:64列~320列CTが主流となり、被曝量の減少と呼吸停止時間の短縮が得られている。320列冠動脈CTで施行されたスタディであるCORE320(N=391)は、冠動脈CTの被曝量は中央値で3.16 mSvであり、SPECT (9.75 mSv)やCAG (12.0 mSv)よりも低いと報告した[2]。
⑥ 診断能:2008年に報告されたACCURACY trialでは、230名に対して施行した64列CTとCAGの結果を比較し、50%狭窄の検出能を感度95%、特異度83%、陽性的中率64%、陰性的中立99%と報告した(Patient-Based analysis) [3]。前出のCORE320では、冠動脈狭窄の検出のみではなくSPECTを用いて虚血陽性を確認し、感度92% 特異度51%、陽性的中率53%、陰性的中率92%と報告した。特異度と陽性的中率の低さは冠動脈の形態的評価と虚血の存在の乖離を反映している[4]。冠動脈CTの陰性的中立の高さは、除外診断への有用性を示唆している。
3. 冠動脈CTの撮影と撮影後処理
冠動脈の撮影には施設による違いや工夫がかなりあり、患者による調整も必要であるが、一般的な撮影方法を簡単に述べておく。冠動脈CTの撮影時間は、患者の入室から退室までで15分程度である。ただし撮影前に被検者の心拍数を確認し、βブロッカー内服で心拍数をコントロールしておくことが望ましい(2016年のSCCTガイドラインには、一般にHR<60を目標とすると記載される[5])。被検者を検査台に仰臥位に寝かせ、心電図モニターを付ける(心電図同期で撮影する)。冠動脈を拡張させるために硝酸薬を舌下投与する。呼吸停止の練習中に心拍数を確認し、必要に応じて短時間作用βブロッカーを静脈投与し、心拍数コントロールする。撮影画像はまず非造影の石灰化スコアを撮影する。その後造影剤を投与しながら冠動脈の撮影を行うが、心周期のどの時点で放射線を曝射するかは、症例に応じた調整が必要となる。通常は拡張期に合わせて曝射するが、心拍数の低下が不十分な場合は、収縮期に合わせたり、連続曝射をすることもある。撮影時の予測心拍数に基づいてCTの撮影パラメーター(ガントリーのRotational speedや台の移動速度)を調整するため、適切な心拍数予測は重要である。撮影された画像の時間幅内から最も冠動脈が停止している時間を選択し、画像再構成を行う。再構成された画像をワークステーションに送り、ワークステーション上で適切なプロトコールを選択して解析・評価する。石灰化スコアの値を得たり、冠動脈を自動/手作業で解析するのはこの段階である。
4. 冠動脈CTから得られる情報と特徴
冠動脈CTから得られる情報としては、全体的な解剖(左室壁肥厚や心房・心室の拡大、卵円孔開存の有無、心内血栓の有無)、冠動脈の石灰化(カルシウムスコア)、冠動脈狭窄評価(プラーク性状評価を含む)などがある。その他、最近のトピックとしてFFR-CTが挙げられる。
4-1. 石灰化スコア (Coronary artery calcium score: CAC score)
冠動脈石灰化の定量評価である。1990年にAgatstonらによって最初に報告され、Agatston scoreとも呼ばれる[6]。1 mSv以下の少ない被曝で検査可能であり、スクリーニング検査に適する。CAC scoreに基づき算出された10年心イベント発症率は、CAC score=0だと1.1-1.7%と低く、400より高値で22.5-28.6%、1000より高値では37.0%と報告される[7]。
4-2. 冠動脈評価
冠動脈プラークは、非石灰化プラーク、石灰化プラーク、それらが混在した混合性プラークに分類する。低CT値のプラーク(30 HU以下)ではSoft plaqueと判断する。冠動脈プラークの性状評価を行うことは、石灰化プラークに対するRotablationやSoft plaqueでプラーク量の多い病変でのDistal protection deviceの使用など、PCIのストラテジー作成に役立つ。
Plaque ruptureをきたしてACSを起こしうるプラークを不安定プラーク(Vulnerable plaque)といい、Positive remodeling、Microcalcification、Soft plaqueの存在、などの所見を持つ。これらの所見をもつプラークは、ACSや、PCI中のSlow flowのリスクになると報告される[8]。Signet ring-like appearance [9]、あるいはNapkin ring signといわれるCT所見は、これらを併せ持つ特徴的な画像を示す。しかし一方でVulnerable plaqueのsubclinical plaque ruptureの報告や、Vulnerable plaqueが経時的に安定プラークへ変化するとの報告もあり、Vulnerable plaqueが存在しても、必ずしもACSを発症するわけではない。
有意狭窄ではない狭窄病変にも注意が必要である。3,242人を対象とした冠動脈CTの評価で、50%未満の狭窄であっても5か所以上あると、心筋梗塞あるいは心血管死亡が冠動脈疾患のない患者と比較して3.1倍に増加するとの報告もある[10]。
以上からは、有意狭窄やVulnerable plaqueの検出のみではなく、有意狭窄以外の病変も含めた動脈硬化性病変を総合して評価することも動脈硬化の治療・心イベント予防を行う上で重要である。
4-3. FFR-CT
従来の冠動脈CTでは、形態学的評価に優れているものの、虚血評価目的に追加検査を必要とすることが多い。FFR-CTは冠動脈CTを流体力学的に解析することで、CT上でFFR評価を行うものであり、CTで行う虚血評価のひとつとして注目されている。
FFR-CTは有意狭窄の診断能が従来の冠動脈CTよりも高く、侵襲的なFFRによく相関することが、DISCOVER-FLOW study(2011年), DeFACTO study(2012年)で報告された。2014年に報告されたHeartFlow NXT studyは、57名の日本人を含む254名の患者を対象とし、有意狭窄の診断においてFFR-CTは従来の冠動脈CTよりも特異度が高いと報告した(FFR-CT vs 冠動脈CT : 感度 86%vs 94%, 特異度79% vs 34%) [11]。
5. 論文紹介
石灰化スコアはAgatstonの報告以降、多くの研究が重ねられてきた。非造影・短時間・低被曝で得られる動脈硬化の総合的な評価として、重要な意味を持つスコアである。石灰化スコアに関連する論文を2本紹介する。
5-1. 石灰化スコアの人種・性別・年齢による違い
MESA(Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis)studyからの論文を紹介する[1]。石灰化スコアの分布について人種・年齢・性別による違いがあることを報告した論文である。この結果を基にCalcium calculatorというウェブサイトが作成されている(https://www.mesa-nhlbi.org/Calcium/input.aspx 2017年9月30日アクセス)。同じ人種・性別・年齢の人達と比較して、対象者の石灰化スコア値がどの程度高いのかを判定することができる。
MESA studyは、明らかな心疾患の既往のない患者を対象とした前向き観察研究であり、この論文では、糖尿病患者を除外した6,110名のコホートを対象として研究している。53%が女性、平均年齢62歳であり、人種の内訳は白人41%、中国系アメリカ人11.8%、黒人26.4%、ヒスパニック20.9%であった。高血圧は58%、脂質異常症は67.6%に認められ、現在あるいは過去の喫煙は49.4%に認められた。BMIが25を超える肥満者が69.9%と多数を占めていた。これらの患者に対してCTを施行して得られた石灰化スコアの値を観察・報告した。
下表1.は、性別・人種・年齢ごとの石灰化スコアの分布(パーセンタイル表示)を示した表である。男性・女性とも全体として年齢とともに石灰化スコアは高くなる。女性を見ると、白人が最も高い石灰化スコアを示し、ヒスパニックは低い値を示すが、75-84歳の高年齢群においてのみは、中国系アメリカ人が最も低値であった。男性では、白人男性が最も石灰化スコアが高く、二番目に高いのはヒスパニックであった。黒人は石灰化スコアが最も低いが、75-84歳の高年齢群においては、中国系アメリカ人が最も低値であった。
表1. 性別・人種・年齢ごとの石灰化スコアの分布
文献[1]より引用
表1.をグラフ化したのが、下図1. (女性)と下図2.(男性)である。人種・年齢ごとの群における石灰化スコアの90/75/50パーセンタイルの値を確認することができる。グラフのY軸の数値が女性と男性でかなり異なる(Y軸の最大値が女性は1,200、男性は4,000)。石灰化スコアの男女差を表していると論文でも指摘されている。
図1. 人種・年齢ごとの石灰化スコアの分布(女性)
文献[1]より引用
図2. 人種・年齢ごとの石灰化スコアの分布(男性)
文献[1]より引用
以上がこの観察研究論文の主旨であるが、石灰化スコアの人種・性別・年齢における分布の違いが印象的である。他論文を読む際にも、石灰化スコアがMESA studyにおけるどの群にあたるのかを注意しながら読むと、より良い解釈ができると思われる。
5-2. 石灰化スコアを用いた予後予測
石灰化スコアは予後予測にも有用である。同じくMESA study由来の論文を紹介する[12]。 MESA studyは観察研究であるため、登録時には“心疾患の既往のない多人種コホート”であったものの中から経過中に冠動脈イベント発症例があらわれる。この論文では、 “MESA risk score”(石灰化スコアと従来のリスクスコア項目を合わせた冠動脈イベントリスク予測)を、石灰化スコアを除いたリスク予測方法と比較検討し、石灰化スコアを取り入れたほうが有用であると結論している。結果を基にウェブサイト(下図3)が作られており、性別・年齢・石灰化スコア・人種・心疾患リスク因子を入力すると、10年冠動脈疾患リスクが得られる。(https://www.mesa-nhlbi.org/MESACHDRisk/MesaRiskScore/RiskScore.aspx 2017年10月1日アクセス)
図3. Online Risk Calculator
文献[12]より引用
今回のスタディでは、88名が除外されたのち、6,726名の結果が解析された。観察開始時の平均年齢は62.1歳、男性が47.2%、人種の内訳は白人38.5%、中国系アメリカ人11.8%、アフリカ系アメリカ人27.8%、ヒスパニック22.0%であった。糖尿病は12.7%、現在喫煙中が13.0%、脂質異常症改善薬使用は16.2%、降圧薬使用は37.2%、心イベントの家族歴は40.1%に認められた。中央値10.2年のフォローアップ中、422の冠動脈イベント(68の冠動脈疾患死亡、190の非致死性心筋梗塞、149の狭心症由来虚血解除、15の心停止後蘇生成功例)が認められた。
下表2. は、リスクファクターのみから求めた10年冠動脈イベント発症リスク(Hazards RatioおよびCoefficient)と、それに石灰化スコアを加えて求めた10年冠動脈イベント発症リスクをまとめている。これら二つのモデルをグラフ化したのが下図4(左)である。Area Under the Curve (AUC)は、石灰化スコアを含めたモデルのほうが大きく(AUC=0.814 vs 0.760)、より高い冠動脈イベント発症予測能を示している。下図4(右)では、冠動脈イベント発症しなかった6,304名と、発症した422名に二つのモデルを当てはめて10年冠動脈イベント発症予測を行っているが、石灰化スコアを含めたモデルのほうが、より高い冠動脈イベント発症予測値を示している。以上から、従来の冠動脈イベントリスク予測項目に石灰化スコアを加えることで、より正確なリスク予測が可能となると報告している。
表2. リスクファクターのみから求めた10年冠動脈イベント発症リスクと、それに石灰化スコアを加えて求めた10年冠動脈イベント発症リスク
文献[12]より引用
図4. リスクファクターのみから求めた10年冠動脈イベント発症リスクと、それに石灰化スコアを加えて求めた10年冠動脈イベント発症リスク
文献[12]より引用
References
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