循環器画像診断の概説:心臓MRI 

1.心臓MRIとは
2.心臓MRI施行時の注意点
3.   1.5Tと3.0T MRIの違い
4.心臓MRIの撮影と撮影後処理
5.心臓MRIの画像と特徴
6.論文紹介
 
1.心臓MRIとは
心臓MRIはOne-stop shop testといわれ、非侵襲的に一回の検査で多くの情報(壁運動・虚血評価・心筋障害評価・冠動脈評価)を得ることができる。非造影画像でも形態・機能的な基本的情報が得られ、造影だと心筋障害評価や虚血評価も可能となり、より情報量は多くなる。例えば初発の心不全患者において、従来は心臓カテーテル検査(冠動脈)・心筋シンチグラフィー(虚血評価)・心筋生検(心筋病理)・心エコー(心機能)など、複数の検査を組み合わせて評価していた情報を、心臓MRIを行うことで一括して得ることができる。近年、従来の遅延造影像よりも新しい心筋障害評価としてT1 mappingが注目されている。
 
2.心臓MRI施行時の注意点
①     ステント:ステント留置部分は信号低下するため、評価できない。
②     CKD患者:ガドリニウム系造影剤の使用により腎性全身性線維症(Nephrogenic systemic fibrosis:NSF)を発症するリスクがあり、eGFRが30 ml/min 1.73m2以下は禁忌である。透析患者も禁忌となる。
③     体内金属のある患者は禁忌である。
④     ペースメーカーやICD植え込み患者の場合、MRI対応/非対応が混在しており注意を要する。
⑤     閉所恐怖症患者:対応に注意するが、MRIの機械に入れない場合は検査中止となる。
⑥     撮影時間:現時点においては、非造影では40分前後、造影では1時間前後かかる。
⑦     空間解像度:MRIの空間解像度は0.6-1.2 mm程度であり、CTのほうが空間解像度は高い(CTの空間解像度:0.2-0.5 mm)。冠動脈壁のプラーク詳細評価には冠動脈CTが適する。
 
3.  1.5Tと3.0T MRIの違い
心臓MRIには1.5T MRIを用いることが多かったが、3.0T MRIを使用する施設も増えてきた。臨床的に使用する画像として、現時点でどちらの方が良いとは言い切れない部分も多いが、以下にその違いを簡単に挙げておく。
3-1.3T MRIのメリット
① Signal to noise ratio (SNR; 信号雑音比)が良くなる:3Tのほうが画像の明るさが高くなり、空間解像度を高く設定できる。
② T1緩和時間の延長:Tagging画像に有用である。また、造影効果が高くなる。
③ ケミカルシフトが大きい:水と脂肪の信号を分離しやすくなるため、3Tのほうが脂肪抑制が良くかかる。
④ 磁化率効果(susceptibility)が増強:T2*画像(鉄沈着・出血)の描出に良い。
3-2. 3T MRIのデメリット
① B0(静磁場)、B1(RF磁場)の不均一:1.5Tよりも磁場不均一の影響を受けやすいため1.5Tと同じ撮像法を用いることが困難。
② Cine画像(steady-state free precession pulse sequence: SSFPシークエンス)は磁場の不均一性によるアーチファクト(banding artifact, flow artifact)が目立ちやすい。
③ ケミカルシフトアーチファクトが目立ちやすい:脂肪と水が接する部位で黒色の縁取りのようなものが見える。磁場強度が高くなるほど目立ちやすくなる。
④ Specific absorption rate(SAR)の増加:Radio frequency energyの吸収による発熱が3Tのほうが大きく、MRIの被検者が不快を感じる可能性がある。また、SARは撮影条件(例:flip angle)にも影響されるため、撮影方法の制約が出る(Spin echo法よりもGradient echo法のほうが3Tでは好まれる。)
⑤ 磁化率アーチファクトが目立つ(Susceptibility artifact):金属周囲の画像のゆがみ・信号欠損が大きい。デバイス症例で問題になる。
 
4.心臓MRIの撮影と画像評価
心臓MRIの撮影には施設による特色や工夫がかなりあるが、一般的な撮影方法を簡単に述べておく。心拍数低下は不要である(時間解像度が良いため)。被検者を検査台に仰臥位に寝かせ、胸部に心電図モニターを付ける(心電図同期で撮影するため)。呼吸同期撮影を行う場合、呼吸モニターを腹部に置く。胸部にコイルを乗せ、検査台の下のコイルと並行に心臓を挟み込むようにする(パラレルイメージング法)。被検者およびコイルを固定し、MRIのボアの中に移動させ、検査を開始する。画像の撮影は通常、吸気または呼気の呼吸停止をして行うが、呼吸停止を行わない場合には、呼吸同期を用いる(冠動脈MRAなど)。被検者は撮影者の指示に従い呼吸を行うため、撮影中に覚醒している必要がある。非造影画像を撮影したのちに、造影画像の撮影を行う。撮影枚数や撮影範囲、スライスの方向、空間解像度、時間解像度等は必要に応じて変更可能であり、臨床的な目的に沿って調整することが望ましい。心臓MRIの撮影時間は、非造影のみであれば約40分、非造影+造影であれば約1時間程度かかることが多いが、撮影プロトコールを選別することにより、時間の短縮を図ることも可能である。たとえば冠動脈MRAは一般的に10-20分程度かかるため、非造影の最後に組み込むか、造影検査終了後に余裕があれば追加することが多い。撮影された画像は通常、ワークステーション上で評価・解析する。ワークステーションによって、評価可能な範囲(目視から定量評価まで)や解析可能な項目が異なるため、自施設のワークステーションの解析機能がどの範囲までなのかを把握し、習熟する必要がある。
 
5.心臓MRIの画像と特徴
心臓MRIには多種の画像があり、それぞれに対する撮影プロトコールがある。目的に応じたプロトコールの選択が重要である。
5-1. 非造影画像
① Cine MRI
MRIは時間解像度が高く(50 ms以下)、壁運動評価に優れる。左室評価のみならず、右室や両心房、大血管や弁膜疾患の評価、先天性心疾患の形態・機能評価にも使用される。目視(あるいは定量評価)で評価できる壁運動低下や菲薄化の部位診断、肥大の有無などのほか、目視ではわからない心筋ストレインやTortion(ねじれ)といった心機能定量評価もTissue tracking機能を持つワークステーションを用いることで可能である。
② T2WBB
T2WBBの高信号は心筋浮腫(炎症)を反映する。心筋梗塞発症後の患者では、急性期では虚血にさらされた心筋領域が高信号を示すが、浮腫の改善とともに消失する。心筋肥大症例では、肥大部位に淡い高信号を認め、浮腫を反映した所見ととらえる。
③ T1WBB
T1WBBの画像は脂肪評価に用いる。脂肪抑制画像と脂肪抑制なしのT1WBB画像を比較することで、心筋内脂肪の部位を確認することが可能である。心筋内の生理的な脂肪沈着や、不整脈原性右室心筋症(Arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy: ARVC)等を疑う症例に用いる。
④ Tagging image
RFパルスを用いて心筋に線状あるいは格子状の印をつけて壁運動評価を行う画像である。T1緩和とともに心筋上の印は薄くなる。心筋上の格子あるいは線は心筋の変形とともに変形するため、心筋ストレインやねじれ(Tortion)、円周方向の短縮(Circumferential shortening)等の定量評価ができる。その他、心膜・心筋のずれを目視で確認することで、心筋心膜癒着の評価にも利用できる。
⑤ 冠動脈MRA
冠動脈を非造影で評価可能であるが、ステントは金属アーチファクトのため評価不可である。空間解像度は冠動脈CTに劣り、石灰化は描出されないため、PCI施行前の石灰化の位置確認や冠動脈プラークの詳細評価には不向きである。ただし、有意狭窄の除外診断にはある程度有用であり、CAGで50%以上の狭窄の冠動脈MRAでの診断能は、感度88% 特異度72% 陽性的中率771% 陰性的中率88% と報告される[1]。冠動脈MRAでの冠動脈のプラーク性状評価の試みとしては、T1WBB画像で高信号の冠動脈プラーク(High-intensity plaque(HIP))がVulnerable plaqueに一致する所見と報告されている。[2]
⑥ Flow
通過血流量や血流速度を測定する画像である。血行動態評価に有用であり、特にシャント性疾患や肺高血圧症において、従来の右心カテーテル検査に準じた評価が可能である。撮影画像の目視では結果は得られず、Flow解析用のワークステーションでの画像解析処理が必要となる。Phase contrast法を用い、通常呼吸下に撮影する。解剖を判断するMagnitude画像と、対応した位置の直行血流速度を反映したphase contrast画像という二種類の画像が得られる。ワークステーション上で対象部位(大血管の断面や弁の開口部など)にRegion of interest(ROI)を置いて測定を行う。
 
5-2. 造影画像
① Stress perfusion
虚血評価の画像である。薬剤負荷(主にアデノシン負荷)あり・なしの心筋Perfusion画像を撮影し、画像を比較することで誘発虚血を判断する。定量評価も可能である。CE-MARC study(2012)では、70%以上の冠動脈狭窄あるいはLMTの50%狭窄の検出を目的としてMRIとSPECTを比較し、MRI:感度86.5%・特異度83.4%、SPECT:感度66.5%・特異度82.6%と、MRIの診断能の高さを報告した[3]。
② 遅延造影像(Late gadolinium enhancement: LGE)
ガドリニウム造影剤を投与後10分から30分程度の画像を撮影する。心筋浮腫、線維化のいずれも高信号を呈するため、T2WBBと併せて判断する。
LGEは心筋障害の評価・予後予測に有用であり、虚血性心疾患[4][5][6]、非虚血症例(拡張型心筋症)[7][8], 肥大型心筋症[9], サルコイドーシス[10]、その他多数の報告がある。初発心不全症例の心筋障害評価目的にLGEを撮影する所以である。
③ T1 mapping
新しい心筋性状評価方法として注目されている。心筋のT1緩和時間が正常心筋と異常心筋で異なることを用いる。撮影した画像そのままを目視評価はできず、かならずT1 mapping用のワークステーションでの画像解析処理が必要となる。非造影の心筋のT1値(native T1)と、造影後のT1値(post-contrast T1)を求めるほか、心腔内のBlood poolのT1値、およびヘマトクリット値から、extra cellular volume (ECV;細胞外容積) を算出することも可能である。心筋の線維化が進行してECVが増加すると、native T1は延長し、post-contrast T1は短縮する。Native T1およびECVから心疾患の鑑別をすることが可能である(図1)。[11]

図1 各種疾患におけるnative T1とECVの特徴 文献[11] より引用  

図1. 各種疾患におけるnative T1とECVの特徴
文献[11] より引用

 
6.論文紹介
心臓MRIの有名な論文を二つ紹介する。いずれも10年以上前の論文であるが、現在も多くの機会に引用される論文である。目にしたことがあるかもしれない。
6-1.LGEの分布パターンや原理[12]
Review論文を紹介する。各心疾患におけるLGEの特徴についてまとめられている。(European Heart Journal (2005) 26, 1461–1474.)
図2はLGEの原理を説明している。(左図)正常組織ではガドリニウム造影剤は細胞外液に分布する。(中央図:急性期のLGE陽性)急性心筋梗塞(などの炎症)で細胞膜が障害されることにより細胞内にもガドリニウムが分布することで、LGE陽性になる。(右図:慢性期のLGE陽性)線維化組織では体積の増加した細胞外液にガドリニウムが分布するためLGE陽性になる。[12]
図2 LGE陽性の原理   文献[12] より引用

図2. LGE陽性の原理
文献[12] より引用

 
図3 は各疾患におけるLGEの代表的な分布パターンについてまとめている。虚血性心疾患は心内膜側あるいは貫壁性のLGEを示すが、非虚血性心筋症では、心筋中層・心外膜側・心内膜側など、疾患により異なるLGEの分布を示す。[12]
図3 各疾患における代表的なLGEの分布パターン   文献[12] より引用

図3 各疾患における代表的なLGEの分布パターン
文献[12] より引用

 
6-2.LGEの深達度による心筋Viability評価[4]
LGEの深達度による心筋Viability評価の根拠となる論文である。(N Engl J Med 2000;343: 1445-53.)50名の虚血性心疾患患者を対象に、虚血解除(PCIまたはCABG)前と虚血解除後で合計2回の造影心臓MRIを施行し、虚血解除前のLGE画像と虚血解除後の壁運動改善の関連について評価した。虚血解除後にMRI撮影されたのは41名であり、虚血解除から2回目のMRI撮影までの日数は79±36日であった。
図4は実際の解析方法を示している。左室短軸をそれぞれ12分割し、各セグメントごとのLGE深達度と心筋壁運動を評価している。LGE深達度(The transmural extent of hyperenhancement)は、図4の右図におけるarea Aとarea Bを用いて、以下の数式で求められた:
100×area A÷(area A+area B)。左室短軸は最大で6断面を評価し、解析対象となったのは2,093セグメントであった。
図4 LGE深達度による心筋Viability評価の解析例   文献[4] より引用

図4. LGE深達度による心筋Viability評価の解析例
文献[4] より引用

 
2,093セグメント中、虚血解除前に収縮異常は804セグメント(38%)で認められ、694セグメント(33%)でLGE陽性が認められた。虚血解除後には425セグメント(53%)で収縮能の改善を認められた。
図5 は心筋壁運動とLGEの深達度ごとに、虚血解除後に収縮能が改善した割合を示している。3つのグラフがあるが、左は収縮異常を呈した804セグメント、中央はsevere hypokinesis以上の壁運動異常を呈した462セグメント、右はakinesisあるいはdyskinesisを呈した160セグメントについての結果である。いずれのグラフにおいても、壁深達度が0%, 1-25%, 26-50%のセグメントにおいては、50~100%の症例で収縮能が改善しているのに対し、51-75%, 76-100%においては、収縮能改善した割合は10%程度あるいは0であった。[4]
図5 LGE深達度による収縮能改善症例の割合   文献[4] より引用

図5. LGE深達度による収縮能改善症例の割合
文献[4] より引用

以上がこの論文の主旨である。虚血解除前にLGEを確認する際に、Viabilityの有無のみではなく、LGE壁深達度からどのくらいの確率で心筋壁運動の改善が見込めるのかを考えておくのは、臨床的な意義があるのではないかと思われる。
 
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加藤 陽子(Baltimore, USA)