私の留学先は循環器領域の画像診断(MRI, CT, US)を扱うラボで、中心となるテーマは「心筋障害と心機能異常の関係」です。MESA、CARDIA、Core320 といったスタディの画像的な仕事を担当しています。今回はMESA studyについてご紹介したいと思います。MESA website(https://mesa-nhlbi.org/)にも詳細が記載されていますので、ご参照ください。
1.MESA studyの概要
Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis (MESA) スタディは、明らかな心疾患の既往のない45-84歳の年齢幅にある米国6地域の白人・黒人・ヒスパニック・中国系アメリカ人6,814名を対象とした、動脈硬化の進行を中心とした前向き観察研究です。国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)の管轄である National Heart Lung and Blood Instituteのグラントにより研究が行われています。2000年の研究開始以降、継続してフォローアップ検査が行われており、蓄積された膨大なデータを基に多くの研究がなされ、2017年までに1,300以上の論文が発表されています。参加施設は以下の6施設です。①Columbia University (New York) ② Johns Hopkins University (Baltimore) ③ Northwestern University (Chicago) ④ UCLA (Los Angeles) ⑤ University of Minnesota (Twin Cities) ⑥ Wake Forest University (Winston Salem)。 当ラボはこのMESA studyのMRIリーディングセンターとして働いてきた経緯があります。
MESA studyの内容の詳細は、Study timelines(https://www.mesa-nhlbi.org/aboutMESAStudyTime.aspx#components)を見ると、どの時期にどの検査が行われたのかを知ることができます。2000年から2007年にかけてのExam1からExam4、および2010年から2012年のExam5の項目は、問診、検体検査、頸動脈・心臓・大動脈の画像検査(エコー・CT・MRI)、ABI、眼科的検査、遺伝子検査など、多くの項目を含んでいます(図1)。Exam 6は2016年秋から開始され、現在も進行中です。
図1. MESA studyのExam 1から5までの検査項目
https://www.mesa-nhlbi.org/aboutMESAStudyTime.aspx#componentsより一部引用
2. MESA studyの成果 (CT)
MESA studyの大きな成果のひとつは、心臓CTの非造影画像から得られる冠動脈のCalcium score (coronary calcium score, CAC)の人種・年齢・性別ごとの分布を報告したことです。CACというのは、冠動脈の石灰化の量およびCT値から求めた定量的な冠動脈石灰化の進行の指標です。CACのデータを元にCalcium calculatorが作成され、同じ人種・性別・年齢の人達と比較して、対象者の石灰化スコア値がどの程度高いのかを判定することができるようになりました[1]。
CACを用いた予後予測も、有用な成果です。“MESA risk score” (石灰化スコアと従来のリスクスコア項目を合わせた冠動脈イベントリスク予測)では、性別・年齢・CAC・人種・心疾患リスク因子を入力すると、10年冠動脈疾患リスクが算出されます[2]。これらの論文の詳細は、別途Review Report 2で記載しましたのでご参照ください。
3.MESA studyの成果 (MRI)
MESA studyにMRIは深くかかわり、左室/右室の形態・機能、大動脈の動脈硬化についてなど多くの報告があります[3]。 MRIはベースライン(2000-2002年)に5,004名、10年目(2010-2012年)に3,015名を対象に施行され、Cross-sectionalおよびLongitudinalなデータが得られています。元々が明らかな心疾患の既往のないコホートのため、加齢にともなう心形態・機能的変化を知ることができます。また観察対象者がフォローアップ中に心疾患や脳梗塞を発症するものもあることから、MRIを含む画像的パラメーターからこれらの疾患発症に関連するものを見つける試みもなされています。
3-1.年齢による心形態・機能的変化
加齢による変化として、Engらは2回のMRIから得られた2,935名のLongitudinal dataの結果を報告しています。まとめると以下のようになります。①end-diastolic volume (EDV)が減少, ②Systolic volume (SV)が減少, ③左室心筋重量(LV mass)が男性では増加(図2)、女性では軽度減少, ④ (①、③の結果として) Concentric remodelingをきたす, ⑤ (①、②の結果として) LVEFは男性では軽度減少、女性では維持 [4]。
ここで興味深いのは、男性のLV mass がCross-sectionalな結果とLongitudinalな結果に変化を生じた点です。実は、1回目の5,004名のMRIを対象としたCross-sectional studyの結果では高齢男性のLV massのほうが若年男性のLV massよりも低い値を示していました[5] (図2のグラフの左側の始点=Baselineのデータを反映)。この結果についてEngらは、そもそもMESA studyが明らかな心疾患の既往のない者を対象としたため、高齢男性ではより健康な者が対象となった可能性がある、と指摘しています[4]。二つのスタディデザインを区別することや、Inclusion/Exclusion criteriaを意識してデータを見る必要性を認識させられます。
図2. 年齢によるLV mass、BaselineとFollow-upの2点のを結んだ線グラフ(Longitudinalなデータ)および左側の始点=Baselineのデータ(Cross-sectional なデータ)
文献[4]より一部引用
3-2.心疾患発症に関連する画像的パラメーター
Blumkeらは、冠動脈疾患・心不全・脳梗塞を対象とし、BaselineのMRIを施行した5,098名の4年のフォローアップ時点のデータを用いてCox proportional hazard model解析を施行しました。結果、冠動脈疾患と脳梗塞発症のHazard ratio (HR)はLV mass to volume ratio (=LV mass / LVEDV)の増加とともに有意に増加し(冠動脈疾患: HR 2.1 per g/ml、脳梗塞: HR: 4.2 per g/ml)、一方心不全発症のHRはLV massに最も強く関連していました(HR: 1.4 per 10% increment)。LV massが特に高いもの(95パーセンタイル以上)は、Reference group (50パーセンタイル以下)と比較してHR=8.6で心不全発症リスクが高かったと報告しています[6]。
また、JainらはBaselineのMRIおよび冠動脈CT (CAC)を両方施行した4,965名の5.8年のフォローアップ時点のデータを用いて、冠動脈疾患・心不全・脳梗塞の予測因子となる画像的パラメーターを検討しました。結果、冠動脈疾患ではCACが最も強力に関連し(HR=1.7 per 1SD)、脳梗塞と心不全ではIndexed LV massが最も強力に関連していた(脳梗塞:HR=1.3、心不全:HR=1.8)と報告しています[7]。
4.心臓MRIの現在のトレンド
少し話題を変えて、心臓MRIのトレンドについて少し言及したいと思います。心臓MRIの技術の進歩とともに研究は進歩し、臨床応用が進んでいます。心臓MRIが使用される場面としては、心不全/虚血/心筋症症例のみではなく、不整脈や先天性心疾患分野でも幅広く臨床使用されるようになってきました。
心臓MRIの現在のトレンドの一部としては、①EFに反映しきれない心機能: 心筋ストレイン / Torsion /4D flowなどの心機能評価(ストレイン・TorsionについてはReview Report 8参照), ②遅延造影像(late gadolinium enhancement, LGE)とは異なる心筋性状評価: T1 mapping・T2 mapping・T2* mappingといったparametric mapping techniques (Review Report 3参照), ③新たなMRIシークエンスの開発やより高磁場のマグネットの臨床応用など、新しい撮像技術の追求, ④Artificial Intelligence (A.I.)を用いた画像解析・診断技術の開発 などが挙げられると思います。
References
1. McClelland RL, Chung H, Detrano R, Post W, Kronmal RA. Distribution of coronary artery calcium by race, gender, and age: results from the Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis (MESA). Circulation. 2006;113: 30–7. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.105.580696
2. McClelland RL, Jorgensen NW, Budoff M, Blaha MJ, Post WS, Kronmal RA, et al. 10-Year Coronary Heart Disease Risk Prediction Using Coronary Artery Calcium and Traditional Risk Factors: Derivation in the MESA (Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis) With Validation in the HNR (Heinz Nixdorf Recall) Study and the DHS (Dallas Heart Stu. J Am Coll Cardiol. 2015;66: 1643–53. doi:10.1016/j.jacc.2015.08.035
3. Yoneyama K, Venkatesh BA, Bluemke DA, McClelland RL, Lima JAC. Cardiovascular magnetic resonance in an adult human population: serial observations from the multi-ethnic study of atherosclerosis. J Cardiovasc Magn Reson. Journal of Cardiovascular Magnetic Resonance; 2017;19: 52. doi:10.1186/s12968-017-0367-1
4. Eng J, McClelland RL, Gomes AS, Hundley WG, Cheng S, Wu CO, et al. Adverse Left Ventricular Remodeling and Age Assessed with Cardiac MR Imaging: The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis. Radiology. 2016;278: 714–722. doi:10.1148/radiol.2015150982
5. Cheng S, Fernandes VRS, Bluemke DA, McClelland RL, Kronmal RA, Lima JAC. Age-related left ventricular remodeling and associated risk for cardiovascular outcomes the multi-ethnic study of atherosclerosis. Circ Cardiovasc Imaging. 2009;2: 191–198. doi:10.1161/CIRCIMAGING.108.819938
6. Yoneyama K, Gjesdal O, Choi EY, Wu CO, Hundley WG, Gomes AS, et al. Age, sex, and hypertension-related remodeling influences left ventricular torsion assessed by tagged cardiac magnetic resonance in asymptomatic individuals: The multi-ethnic study of atherosclerosis. Circulation. 2012;126: 2481–2490. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.112.093146
7. Jain A, McClelland RL, Polak JF, Shea S, Burke GL, Bild DE, et al. Cardiovascular imaging for assessing cardiovascular risk in asymptomatic men versus women the Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis (MESA). Circ Cardiovasc Imaging. 2011;4: 8–15. doi:10.1161/CIRCIMAGING.110.959403