造影剤の安全性と副作用の知見は必要な情報である。今回はガドリニウム造影剤を中心とした造影剤関連の情報をまとめる。
1. ガドリニウム造影剤の種類
2. 造影剤使用に関連するガイドライン
3. 腎性全身性線維症 (Nephrogenic systemic fibrosis: NSF)
4. ガドリニウム造影剤の脳内沈着
1. ガドリニウム造影剤の種類
ガドリニウム造影剤は、その化学構造式に基づいて大きく直鎖型とマクロ環構造の二種類に分けられる(図1)。キレート安定性はマクロ環構造のほうが高く、ガドリニウムイオンの体内での遊離リスクが低いため、副作用としての腎性全身性線維症(Nephrogenic systemic fibrosis: NSF)の発症リスクはMacrocyclicのほうが低い[1][2]。各種ガドリニウム造影剤の一覧およびNSFリスクを示す(表1)。
図1. ガドリニウム造影剤の化学構造式 左: マグネビスト(直鎖型)、右: ガドビスト(マクロ環構造)
表1. 各種ガドリニウム造影剤とNSFリスク
(文献[2] より改変引用)
2. 造影剤使用に関連するガイドライン
ガドリニウム造影剤に限らず、造影剤使用に関連する様々なガイドラインがある。それらを以下にまとめる。ウェブサイトでの閲覧が可能なものも多い。
2-1. 造影剤使用に関するガイドライン
ガドリニウムおよびヨード造影剤使用に関するガイドラインとして、ESUR Guidelinesが参照されることが多い。Version 9.0がウェブサイト閲覧可能である(https://www.esur.org/esur-guidelines)。Section A,B,Cに分けて記載されており、主にSection Aでは急性期・慢性期の副作用(急性のアレルギーや慢性期のNSFなどを含む)、Section Bでは造影剤による腎機能障害(メトホルミン使用時の対応を含む)、Section Cではそれ以外(小児や妊婦への対応)などがまとめられている。その他、American College of Radiologyからも造影剤使用に関するマニュアル(ACR Manual on Contrast Media Version 10.3)が出されている(https://www.acr.org/Clinical-Resources/Contrast-Manual)。
2-2. ガドリニウム造影剤によるNSF
ESURのガイドライン[1] のほか、NSFの診断基準はエール大学 NSF レジストリの臨床的・組織病理学的診断基準[3]に詳しく記載されている。NSFについては項目3.で後述する。
2-3. 腎機能評価方法
腎機能の評価にはestimated glomerular filtration rate (eGFR)や、クレアチニンクリアランス(CCr)、血清クレアチニン値など、多数ある。クレアチニンは糸球体濾過のみではなく尿細管より一部分泌されるため、CCrはGFRよりも高値を示し、腎機能を過大評価する危険性がある。このため、現在はCCrよりもeGFRを使用することが推奨されている。eGFRの中には計算式が複数あるが、その正確性からESUR Contrast Medium Safety Committee guidelinesではCKD-EPI Creatinine Equationが推奨されている。[4] ただしこの計算式を日本人に用いる場合、係数補正(×0.813)が必要となるうえGFR<60 mL/min/1.73 m
2では日本人の GFR推算式より誤差は大きい。日本人を対象とする場合は、日本腎臓学会による腎臓機能の評価推算式を用いたeGFRが最も適当である(https://www.jsn.or.jp/guideline/pdf/CKDguide2012.pdf)。
参考までに、以下にそれぞれの計算式を挙げておく。
(i) Cockcroft-Gaultの式(CCr)
CCr(ml/min)={((140–age)
× weight)/(72xSCr)}x 0.85 (if female)
(ii) CKD-EPI Creatinine Equation (eGFR, 日本人は係数補正(x0.813)が必要)
eGFR = 141 × min (SCr/κ, 1)
α × max(S
cr /κ, 1)
-1.209 × 0.993
Age × 1.018 [if female] × 1.159 [if black]
(SCr = serum creatinine (mg/dl), κ = 0.7 (females) or 0.9 (males), α = -0.329 (females) or -0.411 (males), min = indicates the minimum of S
Cr/κ or 1, max = indicates the maximum of S
Cr/κ or 1)
(iii) 日本腎臓学会による腎臓機能の評価推算式 (eGFR)
eGFR creat (mL/min/1.73 m
2) = 194× Cr
-1.094×Age (year)
--0.287 x 0.739 [if female]
(Cr: serum Creatinine (mg/dL))
3. 腎性全身性線維症 (Nephrogenic systemic fibrosis: NSF)
3-1.NSFの報告数
NSF とガドリニウム造影剤との関連が認識されたのは2006年である。NSFの報告数は2008年をピークに減少し(図2)、現在使用されているマクロ環構造の造影剤ではNSFの報告例は認められていない。[1]
図2. NSFの報告論文数の推移
(文献[1] より引用)
3-2. NSFの診断
腎性全身性線維症(NSF)の診断は、米国エール大学 NSF レジストリの臨床的・組織病理学的診断基準に合致した場合のみとされる。この診断基準は、Clinical scoreとPathology scoreから成り立ち(図3)、それぞれの点数に基づきNSFの診断がなされる。病理所見や皮膚所見の写真が多数掲載されており、是非参照されたい[3]。
図3. NSFの診断基準:Clinical scoreとPathology score
(文献[3] より引用)
3-3. NSFの臨床像
NSFの発症時期は、投与当日から2-3か月、ときに数年後の場合もある。症状としては、初期には疼痛・掻痒感・腫脹・紅斑が一般的に下肢より生じる。皮膚および皮下組織の肥厚や、内部器官(筋、横隔膜、心臓、肝臓、肺など)の線維化を生じ、拘縮や悪液質・死亡に至ることもある。効果のある治療は現時点では報告されていない。予防としてはeGFR30mL/min/1.73 m
2以下のCKD患者にガドリニウム造影剤を投与しない、およびマクロ環構造の造影剤を使用することである。
4. ガドリニウム造影剤の脳内沈着
2014年のRadiologyの報告で、Kandaらがガドリニウム造影剤の脳内沈着について報告した。[5] Kandaらは6回以上の造影MRI施行歴のある患者19名の非造影頭部MRI画像を、6回以上の非造影MRI施行歴のある患者16名の画像と比較した。造影MRI施行歴のある患者はT1画像で歯状核および淡蒼球に高信号を認め(下図4)、以前の造影MRI施行によるガドリニウム沈着による影響の可能性があると報告した。この報告以後、ガドリニウム造影剤の脳内沈着が注目されているが、まだその臨床的意義は明らかになっておらず、今後の報告に注意を要する。
図4. ガドリニウム造影剤の脳内沈着、左図矢印:淡蒼球 右図矢印: 歯状核 (文献[5] より改変引用)
References
1. Thomsen HS, Morcos SK, Almén T, Bellin MF, Bertolotto M, Bongartz G, et al. Nephrogenic systemic fibrosis and gadolinium-based contrast media: Updated ESUR Contrast Medium Safety Committee guidelines. Eur Radiol. 2013;23: 307–318. doi:10.1007/s00330-012-2597-9
2. Daftari Besheli L, Aran S, Shaqdan K, Kay J, Abujudeh H. Current status of nephrogenic systemic fibrosis. Clin Radiol. 2014;69: 661–668. doi:10.1016/j.crad.2014.01.003
3. Girardi M, Kay J, Elston DM, Leboit PE, Abu-Alfa A, Cowper SE. Nephrogenic systemic fibrosis: Clinicopathological definition and workup recommendations. J Am Acad Dermatol. Elsevier Inc; 2011;65: 1095–1106.e7. doi:10.1016/j.jaad.2010.08.041
4. Molen AJ Van Der, Reimer P, Dekkers IA, Bongartz G, Bellin M. Post-contrast acute kidney injury – Part 1 : Definition , clinical features , incidence , role of contrast medium and risk factors American College of Radiology. European Radiology; 2018; doi:10.1007/s00330-017-5246-5
5. Kanda T, Ishii K, Kawaguchi H, Kitajima K, Takenaka D. High Signal Intensity in the Dentate Nucleus and Globus Pallidus on Unenhanced T1-weighted MR Images: Relationship with Increasing Cumulative Dose of a Gadolinium-based Contrast Material. Radiology. 2014;270: 834–841. doi:10.1148/radiol.13131669