EffectivenessとEfficacy?

最近の論文の中で印象的だったのは、nesiritide関連の論文です。Nesiritideは脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)と呼ばれる物質で、日本では発売されていませんが、非常に似た心房型ナトリウム利尿ペプチド(ANP)がcarperitide(商品名:ハンプ)として多く使用されています。 実は、米国ではnesiritideは患者の予後を改善するデータが大規模ランダム化試験で証明されていない段階で、血行動態と症状に好ましい影響(プラセボと比べ肺動脈楔入圧を下げ、症状を改善する)を与える事が心不全患者で示されたことを根拠にFDAが承認し、広く米国で使用されるようになりました [1,2]。 ところが、その後の観察研究のデータやランダム化比較試験のメタ解析から、nesiritideが腎機能悪化や短期死亡に関連しているのではないか、という研究結果が発表され、再度7,000人以上を登録した大規模な二重盲検ランダム化比較試験が組まれました。これがASCEND-HF試験です。この研究の結果、nesiritideは腎機能の悪化にも死亡率の上昇にも有意には関連してはいない、という結論がひとまず得られ[3]、nesiritideという薬自体の「安全性」に関する疑念はこれで払拭されたと考えてもよいかと思いますが、ではどのような患者にこの薬は有効なのかは依然不明なままです。
さて、このASCEND-HFのデータベースを使用していくつものサブ研究が発表されていますが、個人的には次の3つの論文がとても印象的でした。 1つ目は2013年にJACCで発表された「nesiritideは尿量を増やすのか」という事を検証した論文です [4]。この論文ではlogistic regressionにてASCEND-HFでの尿量を詳細に検討し、nesiritideが本当に急性心不全で尿量を増やすのかが検討されていますが、nesiritideは尿量を通常治療群と比較し有意に増加させなかった、という結果でした。 2つ目は2014にCirculationに現在私がいるフローニンゲン大学から発表された腎機能に関するサブ研究です [5]。この研究ではnesiritideの腎機能に与える影響をより詳細に見ています。結果として、nesiritideは腎機能に対する好ましい効果はなかった、という結論となりました。 最後の論文は、血圧の低下と予後との関係を見た論文です [6]。この論文ではnesiritideによる治療は血圧低下イベント発症因子であり、かつ血圧低下イベントは30日死亡率、30日以内の心不全再入院or死亡、30日以内のあらゆる原因による再入院or死亡の独立した予測因子でした。Nesiritideによる血圧低下イベントかどうかと予後に与える影響に有意な交互作用を認めませんでした。
この3つの論文から考えられることは「Nesiritideは使用しても尿量も増やさず症状も改善せず、予後も変えず、使用した際に血圧低下を伴ってしまった際にはむしろ予後を悪くする可能性がある」という事なのではと考えています。 なぜこのnesiritideに強い興味を持っているかというと、同じことがcarperitideにも言えるのではないか、と考えているからです。自分も含め、これまでなんとなく腎保護効果がありナトリウム利尿効果があるとされているし、血管拡張薬として使用してきた方も多いかと思いますが、carperitideも日本において薬事承認されるまではnesiritideと似たような経緯をたどっている、と言えます。また、未だに大規模なRCTにおいてそのefficacyが検討されていない事もASCEND-HFが実施される前のnesiritideと同じです。1点違う点といえば、現在においてもnesiritideとは比較にならないレベルでcarperitideが本邦では使用されている点です(ATTENDレジストリによると58.2%)。この事は、もしnesiritideとcarperitideのclinical effectivenessが同じだと考えると、事態はより日本で深刻だ、という事を意味してはいないでしょうか。
ASCEND-HFがN Engl J Medで2011年に報告された際、Eric J. Topol氏は同号のEditorial Commentsの中で、FDAが予後に与える影響を確認せずに2001年にnesiritideを承認した結果、ASCEND-HFが発表されるまでの10年間に約10億ドルがこの薬に投じられた事を、日本のバブル崩壊後1991-2000年の”lost decade (失われた10年)”になぞらえ批判しました [7]。 私たちはそろそろ、carperitideのclinical efficacyを真剣に検討するべき時期に来ているのではないでしょうか。 (最後に、私は内科学会が定めている利益相反に関する共通指針とその細則(https://www.naika.or.jp/coi/shishin.html)に照らし、申告すべき利益相反はないことをお断りさせていただきます。)
References: [1] N Engl J Med 2000;343:246-253. [2] JAMA 2002;287:1531-1540. [3] N Engl J Med. 2011;365:32-43. [4] J Am Coll Cardiol 2013; 62: 1177-1183 [5] Circulation 2014; 130: 958-965 [6] Circ Heart Fail 2014; 7: 918-925 [7] N Engl J Med. 2011; 365:81-82.

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末永 祐哉(Groningen, Netherland)