1) 施設規模(症例数や特徴など)
留学先のImperial College LondonはCharing Cross Hospital, Queen Charlotte’s & Chelsea Hospital, St Mary’s Hospital, Western Eye Hospital, Hammersmith Hospitalの5つの病院を有しており、私はその中で主にHammersmith Hospitalで勤務しています。Hammersmith Hospitalはロンドンの西部(Acton)に位置しており、ロンドンに全部で8つあるHeart Attack Centerのうちの1つを担っています。そのため緊急症例が多く、急性冠動脈症候群に対する緊急カテーテルは平均5件/日行われています。緊急症例は救急隊がカテ室まで患者を運んできます。その他に定期の左心カテ、右心カテが15-20件/日、デバイス留置が3-4件/日(完全房室ブロックの緊急入院もprimary pacemaker implantationされています)、経皮的大動脈弁留置術(TAVI)が2件/週程度行われています。病院全体で349床と日本でいう中規模の病床数のため、入院ベッドはほぼ満床でベッドコントロールを担当するナースはいつも大変そうにしています。そのためSTEMI患者の在院日数も平均48時間と日本と比べて極めて短期間です。
さてカテーテル手技の内容ですが、それ自体は日本で行われているものと大きく変わりはありません。違うところといえばこちらではスタッフそれぞれの役割分担が明確でそれを飛び越えることはまずありません。診断カテーテルは主にRegistrarと呼ばれるいわゆるレジデントが行います。各症例にConsultant Cardiologistがつき治療方針を決定します。RegistrarはConsultant Cardiologistの指導のもとPCIを行いますが、複雑病変の場合はConsultant CardiologistがPCIを行います。いかなる方針もConsultant無しに決めることはありません。Nurseはカテ中に患者さんの状態を確認しConsultant Cardiologistの指示のもと薬剤投与を行います。Physiologist(生理検査技師)がポリグラフやIVUS、iFR、FFRなどカテーテルの補助診断デバイスを操作し、Radiologist(放射線技師)がカテ台の操作(いわゆる台振り)をします。日本では考えられませんがどこかのポジションの担当者が居ないと患者さんがカテ台に上がっていてもカテーテルが始まりません。お互いの業種を尊重しているのか、あくまでもシステマティックに行っているのかは分かりませんがこれには大分違和感があります。
またヨーロッパ全体に共通することかも知れませんが、ロンドンでは患者さんの国籍もスタッフの国籍も多種多用です。そのため医師にもコメディカルにもバイリンガルのスタッフがとても多く、英語が話せない患者さんが運ばれてきても話せるスタッフが問題なく対応します(何語で会話しているのか分からないことがままあります)。英語ですらコミュニケーションがままならない自分の状況を鑑みると言語面で圧倒的に遅れていることを実感します。
2) ボスや同僚の紹介
今回私の留学を受け入れてくれたのはJustin Davies先生です。冠内圧測定に基づく新しい心筋虚血診断法であるinstantaneous wave-free ratio (iFR)の開発者です。Coronary physiologyのみでなく大動脈の血行動態にも造詣が深く、高血圧における大動脈波形解析の論文報告も数多くされたり、慢性心不全患者におけるrenal denervationの前向き研究のPrincipal investigatorであったりといわゆる血行動態に関するprofessionalです。それで年齢は私と4歳しか変わりません。4年後自分はどこまでたどり着けるかと思うと血の気が引きます。
スタッフにはiFRの共同開発者で最初にiFRを報告したADVISE studyのFirst authorであるSayan Sen、iFR pullback (iFR scout)によるvirtual PCIを報告したSukhjinder Nijjer、iFR-FFR hybrid strategyを報告したRicardo Petraco、RegistrarでありながらEuroPCR2015のYIA受賞者であるChristopher Cook、Preliminaryな段階でLancetからinvitationを受けているというORBITA trial(安定狭心症に対するPCI vs. OMTの無作為ランダム化試験)のPIであるRasha Al-Lameeなどなど極めて優秀な人材が揃っています。あまりの業績とタレントに圧倒されてしまいそうですがこの集団についていけるように結果を残さなければなりません。