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That’s not like what I expected – SUNRISE lab.

That’s not like what I expected

ハワイに縁がある芸術家のひとりにジョージア・オキーフという女性画家がいます。彼女の絵は画面いっぱいに拡大した植物の切り取り方が特徴的で、アメリカンモダニズムの母、と呼ばれることもあります。1939年、すでに有名になっていた彼女ですが、ハワイアン・パイナップル社(現在のドール・フード・カンパニー)から、パイナップル缶の宣伝広告に使うための”みずみずしいパイナップルの絵”を描いて欲しい、と依頼を受けます。同社はこの絵の作成のために、ハワイに長期滞在してインスピレーションの赴くままに作品を作ってください、と滞在費も会社持ちで彼女をハワイに招待します。彼女はハワイの植物や海、山などの自然に魅了され、多くの作品を生み出します。約2ヶ月の滞在中に20枚の作品が生まれ、世界中の美術館で特別展示が組まれるほどの名作群となっています。

しかしその作品群にパイナップルの絵は一枚もありませんでした。

これでは宣伝に使えません!、と担当者にせっつかれた彼女は、新しくパパイヤの絵やヘリコニアの絵を提出してお茶を濁そうとしますが、会社は納得せず、お願いだからパイナップルの絵を描いてください、ご自宅にパイナップルの木を1本送りますから…と食い下がられます。そして最終的にはパイナップルの”芽”の絵を描きます(http://www.georgiaokeeffe.org/pineapple-bud/)。「思てたんと違う!」という担当者の叫びが聞こえてきそうな絵ですが、これはこれで面白い作品になっています。彼女がなぜ頑なにパイナップルの絵を描かなかったかはわかっていません。芸術家特有のこだわりめいたものがあったのか、パイナップルに関連した重大な心的外傷(トラウマ)を抱えていたのか…それはもしかしたら彼女本人にすらわからないのかもしれません。

前置きが長くなりました。つまり今回はいただいたオーダーである「自分の論文になりそうなネタ」とは若干違う内容になっていますが、ご容赦くださいということです。芸術家気取りか!と怒られるかも知れませんが、その理由は、自分のこだわりでもなくトラウマでもなく、基礎研究の中身をあまり早期に公開すると、各方面で問題が起こる、という極めて実地的なものです。特許の問題や、盗用とまではいかなくても、他人の研究課題を自分の研究にしてしまう、ということは、国内外でしばしば起こりうることだということでご理解ください。

ということで、今回のレポートでは、心臓線維化にまつわる以下のトピックをかいつまんで、将来の妄想なども混じえて紹介させていただこうと思います。

  1. 線維芽細胞の多様性について
  2. マクロファージと線維化の関係について
  3. コラーゲンの質について
<そもそも線維化とは>

このレポートの最初の方から繰り返して使用している線維化、という言葉ですが、そもそもどのように定義されているかというと「細胞外基質(Extracellular matrix, 以下ECM)で構成される結合組織が増殖し、組織に沈着または正常組織と置き換わること」とされています。心臓において起こる線維化は、一応二種類に分けられており、心筋梗塞で心筋が欠損した部分を線維化組織が置き換えるタイプ(Replacement fibrosisとかscar fibrosisとか呼ばれます)と、心筋と心筋の間(間質)に結合組織が増殖するタイプ(Diffuse fibrosisなどと呼ばれます)があります。どちらのタイプにしろ、心臓のポンプ機能を悪くすることが知られており、古の時代から解決したい課題として俎上にのる生命現象です。

<線維芽細胞の多様性>

線維芽細胞なしには線維化を語ることはできません。この細胞がECMを大量に分泌するため、病的な線維化における主役と言えるからです。古典的には、「線維芽細胞は間質に存在し、組織を維持するレベルのECMを産生したり分解したりして恒常性を保っている。虚血や圧負荷に晒されると活性化し、ECMを多量に分泌する筋線維芽細胞(myofibroblast)に変化する。この細胞はアクチン骨格(αSMAやSM22など)の発現により、ECMで置き換えた組織を牽引することで瘢痕を形成する」というメカニズムで線維化が起こると説明されています。

近年の研究により、この大筋の説明に加えて、より細かい部分が少しずつ明らかになってきています。例えば”線維芽細胞”とひとくくりにしていますが、存在する場所によっても性質が異なることがわかってきました。心房に存在する線維芽細胞、弁に存在する線維芽細胞、冠動脈中膜に存在する線維芽細胞など、それぞれ異なる性質を持っています。この違いが本質的な細胞腫の違いとまで言えるのか、微小環境によって最適化された同じ細胞なのか、ということまではわかりませんが、こういった部位別の線維芽細胞の研究が進めば、例えば心房に特異的に効く薬剤を開発して心房細動を早期に治すとか、大動脈の硬化を早期に見つけて有意狭窄になる前に介入する、とか、夢のような話が現実になるかもしれません。また、線維芽細胞の数が最も多いとされる心室壁の線維芽細胞の中でも様々な集団があり、幹細胞に近い性質を持った集団やWntシグナル関連遺伝子が特別に増強されている集団、など、それぞれの特別な役割がありそうなサブクラスが見つかっています。こういう細かい集団が病的環境でどのようにはたらくのか、その性質の変化をコントロールする因子は何か、などが興味を持たれています。このように線維芽細胞の多様性の解明は、シングルセル解析が一般化した現在、ますますホットな課題となっている感があります。

<マクロファージと線維化>

直接ECMを分泌するのが線維芽細胞だとしても、その程度を修飾する細胞がたくさんあります。報告の多いものを並べてみると、好中球、リンパ球、マクロファージ、血管内皮細胞、果ては心筋細胞、とほとんどそこに存在するすべての細胞が何かしらの影響を与えているんじゃないかというレベルで、この相互関係を紐解くだけでも気が遠くなりそうな課題です。この細胞群の中でも自分が面白いと思っているのはマクロファージで、新しい話題も多いので少し紹介します。

古典的にはマクロファージは骨髄で単球として作られたものが血管内を循環し、血管外に遊走したのちにマクロファージに分化したもの、とされています。最近では、こういった骨髄由来のマクロファージだけではなく、発生時点から臓器内にマクロファージとして存在している「組織マクロファージ(resident macrophage)」の存在が認識され、注目を集めています。この組織マクロファージは、心臓にもいますし、例えば脳や肺、肝臓など、それぞれの臓器に存在しています。新しいマクロファージのクラスとも言えますが、興味深いことに、生物の進化的にはこちらのマクロファージのほうが古い時代から保存されている集団のようです。

マクロファージの分類といえばM1、M2という分類がよく知られています。M1マクロファージは炎症を惹起するサイトカインの発現が多い一方、M2マクロファージは炎症を抑制するサイトカインを多く分泌することから、単純なイメージからはM2マクロファージが臓器保護的な捉え方をされています。組織マクロファージはこのM2的な特徴を持っているものが多いため、臓器の保護に重要な因子として注目されています。組織マクロファージに特徴的なCX3CR1やGATA6の遺伝子プロモーターを使った研究が行われています。心臓組織マクロファージを除去して心筋障害を誘導した研究では、コントロール群と比較して障害後の線維化が悪化していました。つまり組織マクロファージに特徴的な何らかの因子が、線維化を抑制しているということになります。シングルセル解析により、これらの因子の候補も同定されつつあり、ここからまた、線維化を抑制するような物質の発見につながる可能性があります。

<コラーゲンの”質”が問題?>

あらゆる心疾患で線維化は起こり得ますが、あるものは肥大を伴うコンプライアンスの悪い心臓となり、あるものはペラペラで伸び切った心臓となります。この違いは、もちろん原疾患による心筋の性質変化も大きな要素ではありますが、ECM構成タンパク質であるコラーゲンの「質」がひとつの要素ではないかと注目されています。

コラーゲンにもいくつか種類があり、I型とIII型が線維化組織において主要な構成分子としてよく知られています。物理学的な性質としては、I型コラーゲンのほうがより硬い性質があります。そこでI型とIII型の構成比に着目したいくつかの研究があり、高血圧や大動脈弁狭窄症を持つ患者の心臓では、心臓の「硬さ」とI/III比が相関していることがわかりました。反対に、虚血心のようなペラペラの心臓では、むしろIII型が増加してI/III比は低い傾向でした。こういったことから、圧負荷によって生じる線維化はI型コラーゲンが多く、硬い心臓=拡張障害メインのHFpEFをもたらすのではないかと考えることができます。反対に、虚血心のようなリモデリングが進んで遠心性に拡大していくような心臓の線維化はコラーゲンのI/III構成比を適切にすれば拡大が予防できるのかも知れません。

また、コラーゲンの種類だけでなく、どこまでそのコラーゲン線維が架橋されているか、というのも組織の性質にかかわってくるようです。コラーゲンは線維状のタンパク質ですが、その線維束どうしが架橋されると、より安定した構造になることが知られています。組織の硬さはコラーゲンの量や面積よりも、架橋反応がどれだけ進んでいるかに相関するという報告もあることから、臓器機能の保持にはコラーゲンの過度の架橋を抑制し、最適な状態に保つことが有効かもしれません。架橋を媒介する酵素であるLOXファミリーや、架橋を促進する物質として終末糖化産物(Advanced glycation end products: AGEs)などの報告があり、これらを治療ターゲットとして、コラーゲンの架橋をコントロールするという治療戦略も進んでいます。


心臓線維化という現象についていくつかのトピックをダイジェストでお話してみました。このように解明したい課題は山のようにありますが、すべてに手を出せるわけではありませんし、有望なものには世界中の研究者が全力でお金と労働力を注いでいます。極東の一研究者の立ち位置としては、このような課題から小さな需要を感じ取って、説得力のある結果を積み上げていくことが役割かな、と思います。そういうスタンスの中で、予想もしなかった発見に出会えるかどうか、は運もあるでしょうし、普段から実験結果に真摯に向き合っていなければ見逃してしまうかもしれません。実験をこなす効率を追い求めがちな自分にとって、こういった実験に対する姿勢も改めなければならない課題だと感じています。現在はアイデアの種を集めるとともに、丁寧に結果を見る癖を自分の中に定着させるトレーニングだと考えて日々過ごしています。
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原 昭壽(Hawaii, USA)