ダークサイド = マイナス面(?)

留学生活の写真を一枚、と言われたら何を出すでしょうか。
きっと誰もが華やかな写真を出すと思います(私の場合であれば、Colombo先生の所有するワイナリーでワインをみんなで楽しんでいるところでしょうか)が、それはまさしくチャンピオンケースであり、決して留学生活のハイライトではありません。実際の生活のほとんどは、そのようなイメージとは懸け離れたものかもしれません。そのような見えない(見せない?)面をダークサイドと言うのかもしれませんが、必ずしもそれらがすべてマイナスなものであるというわけではありません。捉え方は個々の価値観で全く違ってくると思いますが、個人的には特にネガティブな意味で捉えている側面のものはほとんどありません。ただ実際に来てみないと見えない部分というのは多くあるのだと思います。
①   お給金について。給料交渉など
それぞれの国毎、基礎か臨床留学か、また施設間の連携の有無、などによって変わってくるのかもしれませんが、現在の施設では、Fellowの立場で給料を受け取るのはまず不可能で、交渉もしていません。当施設にはイタリア国内からだけでなく、毎年国外からも授業料を支払って来るMaster fellowという枠もあり、そういった環境下で給料交渉の余地は無さそうです。
お金に関しては、特に高い家賃のために日本で生活していた頃よりも圧倒的に生活費はかかっています。幸い留学助成金のサポートをいただくことができ大変助かっていますが、それだけで賄うことはできないので、貯金があっという間に無くなっていくのが現実です。これは経験に対する対価として留学する本人としては最初から割り切っているので良いのですが、決して普通の額では無いので、あとはこの価値観を家族が理解してくれるかどうかというところでしょうか。場合によっては留学の実現への最大のハードルになりうるのかもしれません。その点、留学を考慮し始めた当初より十分に理解してくれている家族には、大変感謝しています。
貯金が減っていくのは仕方が無いとは言っても、こちらに来てからは、スーパーで1ユーロの差でも見比べながら少し悩みつつ常に安い方を選ぶようになりました。
②   ボスに言われたひどい言葉。くじけそうになったシチュエーション
ボスに直接言われたひどい言葉、というのは特に記憶にありません。ただ、言語を含めて、自分の力不足に不甲斐無さを感じることは多々あります。例えば当施設からのライブのImagingコメンテーターを任せていただいたのに、思ったことが全然伝えられなかったり。ただ、こういう挫折を経験することも留学の意義の一つだと思うので、決してマイナスと捉えたり、それによってくじけそうになるということはあまりありません。
ただ、どこの国に行っていてもその感じ方が同じだったかと言われると正直わかりません。イタリアの非常にOPENな国柄というのが、留学生活を大きく助けてくれているのでは、とも感じています。同僚、コメディカルを含め、街中でもそうですが、誰もが見知らぬ日本人にも温かく接してくれます(少なくともそう感じます)。この国では、外から来たからといって疎外感を感じさせられることが非常に少ない気がします。1日の中でカテ室から出て病院内を移動している限られた時間の中でも、毎日のように一般の患者さんが明らかに外国人の私にでも道を聞いてきます。そういった細かいことを全く気にしないようなイタリアの雰囲気というのは、とても気に入っています。
③   留学に際して付随するハードル
以前にも記載しましたが、私の中での一番の困難は、留学前でした。正直一番くじけそうになったところかもしれません。近年の欧州は移民問題も関与してか、どこの国でもビザ取得などについてのハードルが上がっています。イタリアはかなり難しい国の一つだと思いますが、結局取得方法に際し正確な答えは無く、十分な情報も、公的なサポートというものもありません。ビザの問題だけで無くおそらく国毎に様々な問題があると思いますが、結局それぞれのハードルは個々にて解決しなければ行けないというのが現状です。もちろん、留学のためにはそういう苦労も当たり前なのかもしれませんが、その時はもう少し何らかの体制があってくれればとも感じました。(金銭的なサポートについても同様かもしれません。)
そういった面で、このSUNRISE研究会というのは、留学生にとって多くの情報共有を可能にしたことを含め画期的なものであり、そのConceptには大変感銘を受けています。その発展にわずかながらでも自身も貢献できれば、と感じています。
④その他
日常において日本では考えられないようなことが多々起こります。
まだミラノに来たばかりの時、シャワー室のドアの下側の接続金具の不具合で開閉が出来なくなり修理を頼みました。その修理の対応としては、金具を交換するのでなく全部取ってしまい、ドアそのものがぶら下がってグラグラになってしまった状態で、‘これで開閉はできるだろ’というものでした。とりあえずその場を適当に凌ぐ、というような対応がこの国では多いようです。ただ、これはきっと日本の価値観で考えるから理不尽と思うのであって、そこはイタリアだからと考えるようにすると、最近はあまり気にならなくなってきました。
どちらかというと古い価値観に凝り固まっていた自分には、日本とは真逆に近いイタリアというのは、色々な感覚を与えてくれている気がします。
ちなみにこの国では病院の中でもシュレッダーというものを見た事がありません。日本では今では病院だけで無く自宅でも個人情報の書かれたものは徹底的に刻んで廃棄するのが当たり前のようになっていますが、イタリア人に言わせれば‘?’という感じなのかもしれません。
こういった概して寛容なイタリア文化に触れていると、時に日本の感覚の過剰さ(?)について考えさせられることもあります。
少しダークサイドからは話が逸れてしまいましたが。。
あと一点この回で書くほどのことでは無いかもしれませんが、先日イタリアで歯科治療を受けました。出発前に歯科でもチェックを受け万全で行ったつもりでしたが、毎朝病院のカフェでエスプレッソとともにチョコクロワッサンを食べていたのがいけなかったのか(?)、歯が痛み始めました。医療保険ではカバーされず、深かったこともあり1本の治療に10万かかりました。海外に来ると歯が痛くなるケースは意外に良くあるようなので、注意が必要かもしれません。
⑤最後に
私にとって、留学中唯一くじけそうなシチュエーションというのが、諸事情で家族を基本的に日本に残して単身で留学に来ているということでしょうか。大切なものが手の届くところに無いことを考えた時、自分の留学の意義そのものを見失いそうになることもあります。
ただ、そういった状況だからこそ、普段感じることができないようなことを、深く考えるようになりました。家族を含め、周りの支えてくれている人達の大切さを今改めて感じており、常に感謝をしながら留学生活を1日1日大切に送らなければいけない、ということを胸に刻んでいます。
留学というのは本人の強い意思さえあれば可能、とも捉えられがちではあるかもしれませんが、多くの人に支えられてようやく成立するものである、ということを強く実感しています。

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田中 哲人(Italy)