ビジョンはまだ妄想のレベル

今回のテーマが一番難しい。留学後半でこの留学期間に自分がどれだけ出来たか(できるか)分かっていればビジョンも描けると思うが、4ヶ月が終わった今の時点では日々の生活と語学と研究の下準備が成し遂げたことの全てで、留学を通してビジョンを描けるまでは行っていない。それでは話が終わってしまうので、この機会を使って考えてみたいと思う。
まずは現状から。先日滞在許可の手続きをしにQuesturaに家族で行き、多少のトラブルはあったもののその後大家さんの協力でなんとか申請が終わった。いつ行ってもQuesturaは独特の雰囲気だし、なんだか緊張する。もうしばらく行きたくないが、滞在許可は1年毎なので必ずもう一回は行かなければいけない。
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写真1,2 Questura 電光掲示板に表示されたら奥に入って申請できる。常にいろいろな人種の人でごった返している。なのに英語は通じない。
職場には大体慣れてきて、大抵の人の名前と顔は一致するようになった。イタリア語は挨拶+α程度しか話せていないが、コミュニケーションはだんだん取れるようになってきた。本当は実臨床でもう少し中に入っていきたいが、実は4ヶ月が終わるというのに放射線防護の手続きが終わっていない。最近ようやく次のステップに進んで、これから血液検査、尿検査、便潜血チェック、甲状腺、腹部のエコー、皮膚科、眼科の診察、放射線防護医による身体検査が待っている。これらを終えてようやくカテ室内に入れるらしい。本当は身体検査の予約が1ヶ月後だったらしいが、ボスがキレ気味に交渉してくれたらしく今月中に終えることができそうだ。ただすべて予約を取る必要があり、当然自分では無理なのでカテ室のスタッフみんなに手伝ってもらって何とかこなしている。書類はすべてイタリア語。半分ぐらいは読めるようになったが問診票になるとさっぱりわからないので辞書を片手に格闘している。ダメならレジデントに手伝ってもらおうと思えるところに慣れてきた感じがする。
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写真3 カテ室にあるキッチンにて。誕生日を迎えた人がみんなに甘いパンを振る舞うのが風習
手技に関しては不確定な要素が多いので、まずは研究実績を上げることを優先して取り組んでいる。これから半年以内にどれ位実績が積めるかに今後の留学生活がかかっているだろう。留学は人生の夏休み、なんて聞いたことがあるが、正直今はそれどころではなく、言葉も喋れず、手技も出来ないただの人以下の存在なので「一つでもイタリア語単語を」「一文でも論文を」というかなり追い詰められた生活をしている気がする。最近よく浪人時代を思い出す。。。まさか40にもなって20歳の頃をこんなに振り返るとは思わなかった。
可能なら大学生時代の6年間を返してほしい。毎日1,2時間語学をやっていれば、、、。以前は留学した人は楽に語学ができるからいいな、と思っていたが実際はみんな話せないことに落ち込んで、毎日仕方なく猛勉強してという苦々しい日々を乗り越えて話せるようになるんだと悟った。4歳の息子やこちらで知り合った人の小学生お子さんを見ても同じなので子供のうちに来てれば大丈夫というわけではないだろう。
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写真4 小児循環器でPadovaに短期留学中の喜瀬先生と。イタリア人スタッフに溶け込むために差し入れの和食を作成中。
さて、ビジョンについてだが、このように日々生きるのに必死なので先のことは全然分からない。ここからはただの妄想だと思って読んでいただきたい。
イタリアにはStructural heart diseaseを学びに来たので当然将来的にはこれらの治療に関わっていきたいと思っている。ただ、今までは弁膜症を扱うより遥かにEVTやPCI, PCPSなどの経験の方が多い。実は今までの医者人生で自分で能動的に決断したのは循環器を選んだときと、留学準備のため大学に戻る希望を出した時、今回の留学を決めたときの3回しかない気がする。基本的に主体性がないので、必要とされる分野に手を出していくうちに何でも屋になってしまった。二兎を追うものは、、、という状態で分野に統一性がないのできっと大成できないと思っているが、やってみるとどの分野も非常に魅力的だし、何しろ必要とされているのは楽しいのできっとこれからも節操のない状態は変わらないと思う。
こちらのカテーテル治療医がPCIもSHDも、人によってはEVTもするようにカテーテル治療を中心としてこれからもどの分野もある程度やっていきたいと思っている。もともとSHDやEVTの技術はPCIから派生したものだし、それぞれの技術が他方で役に立つこともしばしば経験している。もちろんそれには問題があって欧米の医者はカテーテル治療医ならカテだけをやって病棟管理をしないからそんなことができるのに対し、日本の医者は外来、病棟管理、カテ全てをこなさなければならない。そこに沢山の分野のカテをこなすのは相当難しいと思う。
じゃあどうしよう、というところで今は思考が停止しているので答えはないのだが、結局他人に頼るというのが一つの方法になると思う。今風の言い方をするとチーム医療ということになるのだが、固定したチームを作るだけでなく、海外生活を経て鍛えられるであろう「人間力(ずうずうしさ)」を駆使して院内院外いろいろな人を巻き込んで教えを請い、たまに教えて経験、知識、技術を共有していけるような共同体をつくれれば理想的。もしその分野のスペシャリストがいるなら押しのけてまで自分がしたいとは思わない。分野を限らなければどの病院でも(大学病院は別かも知れないが)隙間は必ずあるはずなのできっとこんな私でも役に立つ機会はあるだろう。そのためには、今はきっと自分に泊と魅力をつけることに専念できる最後の機会なのでこれから1年半、精一杯やっていこうと思う。

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植島 大輔(Padova, Italy)