行動あるのみ!

2018年3月某日
日本から遙か8,000km離れた豪州メルボルンのとある銀行で、1人の男が絶望と共に立ち尽くしていた・・・
男はATM操作を何度も間違い、先ほど手に入れたばかりのバンクカードを没収されてしまったのだった・・・
しばらくして、男はこうつぶやいた・・・
「俺、本当にやっていけるのかな・・・」
プ○ジェクトX~挑戦者たち~


 
皆さんこんにちは。
上記の男は1年前の私です。渡豪初日に犯した大失敗です。緊張と長旅の疲れで精神状態がおかしかったのでしょう。間違った暗証番号を繰り返し入力し続けた結果、セキュリティに引っかかって没収されました(間抜け過ぎますね・・・苦笑)。当日は対応してもらえず、翌日に何とか無事取り戻しましたが、その日の夜は不安で一杯だったのを覚えています。
そんな私でも海外で1年間生活することができました。間違いなく人生で最も濃密な1年でした。最終回はこれまでを振り返りながら、今しか書けないリアルな感想をお届けしたいと思います。
【1年を振り返って】
まず研究面に関してですが、留学前に思い描いていた通りの充実した日々を過ごすことができました。上司であるProfessor Marwickは素晴しいメンターであり、自分の成長に合わせて様々なテーマを与えてくれます。確実に自分の引き出しが増えていっているのを実感しています。また、先月からは基礎研究グループとの共同研究が始まりました。これは全く予想していなかった展開です。ある日、遺伝子の研究をしているラボのチーフからメールが届きました。そこには「ネズミの左房機能評価を手伝ってほしい」と書かれていました。直接会ってお話を聞くと、イメージング部門のトップでもある私のボスに相談したところ、「左房のことならHiroshiが力になってくれるはずだ」と推薦してくださったようです。これは嬉しい驚きでした。留学における最重要因子の1つは間違いなく「上司」だと思います。私は本当に上司に恵まれました。
私生活も充実しています。順応には半年程かかりましたが、今では元気に楽しく暮らせています。妻は日本人ママ友の輪が広がって毎日楽しそうにしています。また、最近では公園で出会った外国人ママさんともお友達になったようで、よく子連れで一緒に遊んでいます。交友範囲は確実に私より広いです(羨ましい)。子供達もすこぶる元気です。長男(5歳)は先月から英語学校に通い始めました。ここは非英語圏から来た子供達の学校ですので、ネイティブばかりの現地幼稚園を耐え抜いた彼にとってはヘッチャラみたいです。英語もグングン上達しています。一方、少しずつしゃべり始めた次男(2歳)は日本語と英語の区別がつかないようです。私を「とーさん」と呼び、妻を「Mum」と呼びます。いずれ統一が必要なのでしょうが、今はおもしろいのでそのままにしています(笑)。
この1年で随分タフになりました。近頃では少々のことでは全く動じなくなりました。先日も朝起きたらアパートの敷地を囲っていた塀が強風で倒壊しており、一部は通路を塞いでいました(写真)。しかも、この状態が1ヶ月近く続いており、未だに直っておりません(オーストラリアあるあるです・・・)。まあ、普段の生活には支障ありませんし、これくらいのことは普通に受け流せるようになりました(笑)。
写真1
写真: 見事に倒壊した塀。なぜ手前だけ逆に倒れたのでしょう?どうせなら全部空き地側に倒れてくれれば良かったのに・・・(笑)。
何はともあれ、今こうして楽しく生活できているのも家族が同じように海外生活を楽しんでくれているからこそです。一緒に苦労を乗り越えてくれた家族には本当に感謝しております。
【次の1年の目標】
仕事でも私生活でもどんどん新しいことに挑戦したいと思っています。その上で、始めたからには全て論文にすることが研究面での目標です。徹底的に形にすることに拘りたいと思っています。とにかく、まずは1本です。1本通れば精神的にゆとりが生まれて、新しいことにも挑戦しやすくなる気がします。幸運にも、投稿していた論文の1つが新年早々に感触の良いコメントと共に返ってきました。絶対にこの好機をものにしたいと思っています。
並行して英語の勉強にも力を入れたいと思います。英語は自分でも驚くほど上達していません・・・。もちろん以前よりは確実に良くなっているのですが、留学前に夢想した姿からはほど遠い状況です。やっぱり甘くないですね・・・。夢と言えば、最近全てが英語の夢を見るようになりました。これは脳が英語脳に近づいている証拠らしいのですが、夢の中でもしゃべれないのは同じでした・・・(苦笑)。「語学に王道は無い」というのは真実です。地道にトレーニングを続けるしかありません。英語は一生の課題です。
私生活での目標は、家族でオーストラリア中を旅することです。せっかくオーストラリアにいるのですから、日本からはアクセスしにくい場所にも行ってみたいと思っています。できればお隣ニュージーランドにも。幸い誰もホームシックにかかっていませんし、帰国しなければならない用事もありませんので、一時帰国はせずにこのまま滞在を続けながらオーストラリアを満喫しようと思っています。目標はオーストラリア全州制覇です!
旅行写真 補正後
家族旅行の写真: シドニーのオペラハウスとハーバーブリッジ(左上)、ブルーマウンテンズ国立公園(右上)、ウルル(左下)、グレートオーシャンズロード(右下)。まだまだ行ってみたいところが一杯です。
【留学を経験してみて感じたこと】
もし今の私が、ATMの前で茫然としている1年前の自分に会うことが出来るなら、次のように励ますと思います。
「大丈夫、何とかなるよ! 頑張っていたら、必ず誰かが助けてくれるから!! 最後は何とかなるから!!! だから、めげずに頑張れ!!!!」
「頑張っていたら、最後は何とかなる」。この言葉は、私が留学を迷っていた頃に経験者の先輩から頂いた言葉です。その当時は真意をくみ取れず、「なぜそう言い切れるのだろう?」と不思議に思ったものですが、自分で留学を経験した今ではとても良く理解できます。本当に何とかなるのです。留学にトラブルはつきものです。予想もしないトラブルが次々に湧き出てきます。独力ではどうしようもない局面も多々あります。それでも何とかなってしまうのです。事態を打開しようと必死で頑張っていると、必ず誰かが手をさしのべてくれます。助けてくれます。もちろん時には何かをあきらめなければならないこともあります。それでも最後には何とかなってしまうのです。自分でも非科学的なことを言っている自覚はあるのですが、こうとしか言いようがありません。とにかく、大切なことは行動することです。行動し続けることです。昔の偉人もこう遺しています。
為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり ~米沢藩9代藩主 上杉鷹山~
行動し続けていれば、必ず道は開ける。そう信じることができるようになったことが、私にとっての最大の収穫だと感じています。
【謝辞】
最後になりましたが、貴重なレポートの機会を与えてくださりご支援くださいましたSUNRISE labの皆様、そして1年間お付き合い頂きました読者の皆様に心より御礼を申し上げます。皆様とはいつか共同研究という形で再びご一緒させていただきたいと思っています。今度は自分で立ち上げた臨床研究を携えて、必ずもう一度SUNRISEに帰ってきます。そのためにも残り1年しっかりと研鑽を積みたいと思います。今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。
 
番外編:夫もしくは父のわがままに振り回された家族の留学奮闘記
最終話「オーストラリアに来て良かった?」
夫:「来て良かった?」
妻:「もちろん!」
夫:「来る前と今では留学に対するイメージは変わった?」
妻:「全然変わってない。今でも旅行と思っています! 長い夏休み!!」
※1年前と全く変わっていないようです(笑)。そう思ってくれている妻に感謝です。
 
父:「来て良かった?」
長男:「うん!」
父:「こっちに来て一番良かったことは何ですか?」
長男:「うーーーーーーーん、動物園がいっぱいあること!」 (いろいろあって随分悩む)
父:「じゃあ、こっちに来て一番嫌なことは何ですか?」
長男:「英語!!」 (即答)
※やっぱり子供でも英語はしんどいようです・・・。すまぬ。
 
父:「来て良かった?」
次男:「No (にやにや)」
父:「オーストラリア好き?」
次男:「No (にやにや)」
父:「じゃあ日本好き?」
次男:「No (にやにや)」
※最近は私が何を聞いても「No」で返してきます・・・。反抗期の一種なのでしょう(苦笑)。
家族写真 補正後

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川上 大志(Melbourne, Australia)