世界のどこにいても

昨年4月から留学を開始して、10か月が過ぎました。ようやくこちらの気候にも慣れ、これくらいの温度ならこれくらいの服装でいいだろうと予測が経つようになりました。お店が閉まって暇な日曜日も、料理をしたり、子供と公園に行ったり、過ごし方が分かってきました。
現在の留学先に受け入れられて、自分のデスクを与えられて、研究課題を与えられて、毎日思うのは、自分が本当にこの施設で役に立つ存在なのか・・・という疑問です。日本にいるときは、それこそマンパワーとして病院を支えてきたので、そんなことを考えたことはなく、まさに研修医ぶりの疑問です。
永住も含め、ドイツに長期滞在している日本人は4万4000人いるそうです。もちろんその中で腕一本で認められた人たち(音楽家、シェフ、技術者など)もいると思いますが、多くは、ドイツ人と結婚した配偶者か、日本の企業の駐在員とその家族、期限付きで留学に来ている大学生やワーホリ生たちです。それ以外の日本人がお金を稼ぎながらこの国で滞在しようとしたら、生かせる特技は「日本語」くらいしかなく、そうなると喜んで採用してくれるのは必然的に日系企業か日本料理店(ラーメン屋などフランチャイズも含む)しかありません。なぜなら、ドイツの仕事を任せるならドイツ語をちょっと話せる日本人に頼むより、確実にコミュニケーションのとれるドイツ人に頼んだ方がよっぽど効率が良いからです。夢を持ってドイツで一旗揚げようと思っている日本人には厳しい現実だと思います。
研修医も海外からの留学生も結局はお客様。そんな留学生に、自分の施設のデータを渡して、ほらっ解析してみろ、なんて寛大な話だと思います。繰り返しになりますが、それはドイツ人の研究員に依頼しても同じくらいの結果が得られる可能性が高いからです。ドイツで医師免許を取得し、働き続けている日本人医師と話す機会があったのですが、彼は「常に200%の結果を出し続ける」ことを心がけていると言っていました。常に求められている以上の結果を出し続ける、そのような結果を現在出せているかは分かりませんが、今のところ、荷物をたたんで帰れとは言われていないので、契約期間の2年が満了するまで、お金の続く限り居させてもらおうと思っています。
今回の私の留学は決して私一人では成し得ませんでした。一人でも欠けると倍くらい忙しくなる毎日の臨床業務の中、私を留学に送り出してくださった医局の先生方には本当に感謝しています。資金不足で不安で始まった留学でしたが、援助してくださったSUNRISE研究会や他の先生方、親類にも頭が上がりません。この約1年間で学んだことは、どんなに不安定な状況であろうとも、自己主張していく強さと、継続は力なり、こつこつと続けて行くことの大切さです。海外という言葉の上手く通じない環境は、自分の研究内容やプランをディスカッションする上で圧倒的に不利なシチュエーションではありますが、人種や育った環境の異なる人たちと切磋琢磨しながら先に進んでいくのは、これまで経験したことがないほど意義深いことでした。ただ、こんなことを言ったら語弊があるかもしれませんが、実際に留学しなくても、海外の研究者たちと連絡を取り合ったり、共同研究を進めていくことは可能だと思います。世界のどこにいても、自分の世界に一つしかない研究を推し進めていく意志の強ささえあれば、どこでもやっていけるというのが、今約1年の留学を終えての感想です。
現在留学を考えている先生方へ。準備に早すぎるということはないので、まず、希望をしている留学先、その国のビザの取得方法について徹底的に調べておくこと。そして、自分のしたいことを達成するために必要なこと(言語や金銭面など)を本気で考えて現実的な準備をしておくことをおすすめします。特にご家族を帯同されるなら、準備が必要な書類や金銭的な負担も増えるので、より具体的な計画が大切です。留学期間は限られていると思うので、その限られた期間を有効に活用するために、準備段階から留学は始まっていると思って年間計画で用意しておくことが必要だと思います。そして、海外に来たら来たで、想定外の苦労や困難が必ず出現しますが、きっと何とかなります。私がそうだったので。

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伊集院 駿(Jena, Germany)