私は留学先の施設で、2Dスペックルトラッキング法を用いて算出したストレイン値で、Structural heart diseaseに対する経皮的デバイス植え込み症例の、植え込み前後の心機能の変化やリモデリングの有無について解析しています。
現在取り組んでいるのは、左心耳閉鎖デバイス植え込み後の左心房のリモデリングの有無についてです。
左心耳は左房体部よりコンプライアンスが高く、左心房全体のreservoir機能を補填しており、左心房に急に容量負荷がかかった際に、緩衝材として左房圧の急激な上昇を防ぐと言われています(文献1)。私が今回の解析を行おうと思った理由は、左心耳の閉鎖デバイスを埋め込むことにより、そのreservior機能が失われ、血行動態の悪化が起こらないか興味があったからです。またデバイスにより、心耳の伸展が妨げられ、心房利尿ペプチドであるANPやBNPの分泌が減少したり、その結果心不全を来たさないかが気になりました。また逆に、抗血栓作用以外に、何かデバイス植え込みによるメリットがあれば面白いなと思いました。
解析前にいくつかの文献を参考にしました。
例えば、19匹の雑種犬の左心耳を切除して、切除前と切除後で血行動態やエコーの項目を比較した報告(文献2)では、植え込み後1週間~3ヶ月で左房圧に変化はありませんでしたが、肺静脈血流波形の収縮期成分が低下していたので、左房のreservoir機能が落ちたのではないかと述べられていました。これは短期間の検討ですが、長期的に観察すると左房圧が上昇するのではないかというのが筆者の見解です。
また、経皮的に左心耳を閉鎖した44症例の検討では、デバイスを植え込んだ24時間後に収縮期血圧と拡張期血圧が有意に低下し、うち9人の高血圧症例はその後、降圧薬を減量することができたと報告されています(文献3)。経皮的に左心耳を結紮した症例でも高血圧が改善した報告があり、仮説として術後に心耳壊死にともなうANPサージが起こり、RAS系が抑制されたのではないかと書かれていました(文献4)。ただ、いずれも長くて一年程度の短期の観察期間でした。
以上を踏まえ、現在私は、経食道心エコーによって得られたストレイン値等を参考にして、デバイス植え込み前後の左房のリモデリングの有無の解析を行っています。解析はまだ途中で、ここでお示しできませんが、どんな結果が出ても論文にしようと思っています。
現在、もう一つ注目しているのが、経皮的な三尖弁デバイス治療後の変化です。
私自身、日々の診療で、左心性心疾患由来の二次性三尖弁閉鎖不全症患者さんの治療に、大変苦労してきました。鹿児島という土地柄もあるのでしょうが、多くの方が手術適応に満たない超高齢者であったり、また同時手術の適応となる弁膜疾患のない方もいて、皆、外来の度に下腿や足背の浮腫、体重の増加を訴えていました。利尿剤を追加し一時的に改善はしますが、腎機能が徐々に悪化、ただ症状の訴えは続くので利尿剤をやむなくさらに追加し、また腎機能が悪化するという悪循環でした。最終的には、維持透析やECUMを導入せざるをえない方もいて、その度に自分の内服薬選択の稚拙さを後悔し、頭を抱えていました。そのような患者さんたちに役立つ治療を研究したいと思ったのが、今回の留学の動機です。
現在ヨーロッパでは、様々な三尖弁の経皮的治療デバイスが開発されており、治験が進行中です。
内服治療により心不全症状の改善しない重症三尖弁閉鎖不全症に対して、MitraClipで三尖弁のクリッピングを行った64症例の検討では、2例を除いてほとんどの症例でⅠ度以上の三尖弁逆流が改善し、退院時、30日後の観察でNYHA classと6分間歩行距離が有意に改善していました(文献5)。
また、外科的手術適応のない中等症以上の症候性三尖弁閉鎖不全症に対して、経皮的に弁輪を縫縮するCardiobandで治療を行った30例の治験は、現在進行中で、30日後の観察ではNYHA class、6分間歩行距離、浮腫が有意に改善していたという中間発表がありました(文献6)。
いずれも治療の導入条件として、右心機能が保たれていることや著明な肺高血圧がないことなど、制約はありますが、外科的手術の適応とならない重症三尖弁閉鎖不全症患者さんにとって期待のできる治療ではないかと思います。
そのようなデバイスが日本で臨床的に使用できるようになるには、まだかなり時間がかかると思いますが、私の留学先の施設でも現在、三尖弁のクリッピングを行っているので、今後はそのデータ解析も行っていきたいと思っています。
<引用文献>
(1) Davis CA et al, Compliance of left atrium with and without left atrium appendage Am J Physiol 1990 ;259 : 1006-1008
(2) Kamohara K et al, Impact of left atrial appendage exclusion on left atrial function, J Thorac Cardiovac Surg. 2007 Jan;133(1):174-81
(3) Yang Y et al, Blood pressure reduction following percutaneous left atrial appendage occlusion in hypertensive atrial fibrillation patients, J Am Coll Cardiol 2016 Apr 67(13):721
(4) Maybrook R et el, Electrolyte and hemodynamic changes following percutaneous left atrial appendage ligation with the LARIAT device,J Interv Card Electrophysiol (2015) 43:245–251
(5) Nickenig G et el, Transcatheter Treatment of Severe Tricuspid Regurgitation With the Edge-to-Edge MitraClip Technique, Circulation. 2017 May 9;135(19):1802-1814
(6) Nickenig G, TRI-REPAIR: 30-Day Outcomes of Transcatheter TV Repair in Patients With Severe Secondary Tricuspid Regurgitation, tct2017