無理やり自分を前に押し出す

留学を開始して、早いもので半年が過ぎてしまいました。
正直まだやりたいと思っていた目標を達成できておらず、お金だけが減っていき、不安がよぎる毎日です。ただこちらでしか得られない経験を必ず得て、日本に持ち帰り、役立てたいと思っています。
正直今の環境は日本のこれまでの環境と比較すると、とてもパワーが要ります。
もちろん言葉の壁はありますが、それ以上に、自分からどんどん意見を言わないと物事が先に進んでいきません。
私か今行っている研究は臨床研究で、私の上司は皆臨床家です。ドイツの臨床医が忙しいのは日本と変わりないです。私が与えられた研究課題のディスカッションをしようと上司たちに持ちかけてから、実際にその場が持たれるまで実に1カ月かかりました。廊下で会うたびに話しかけたり、メールでアポをとったり、遠慮していたつもりはないのですが、それだけの時間がかかってしまいました。いつ話しかけても、今日は忙しい、明日も分からないとそっけない態度で言われ、なかなかとりあってもらえませんでした。
そんなとき、カナダに留学していた日本の教授と話したのですが、「大陸の国は利己主義。島国の日本と同じ感覚でいてはいけない。」と言われ、はっとしました。それからは、多少嫌われても構わないという覚悟で、上司に忙しいと言われた後も、毎日上司の部屋にしつこく通ったり、カテ室の前で待ち伏せしたりするようにしました。やっと持たれたディスカッションの場では、上司たちに「君のデータはすばらしい。私たちは忙しくて、君に費やす時間が少なく、申し訳ない。」と言われました。ツンデレなのか、よく分かりませんが、彼らが「申し訳ない」と思っていたのが意外でした。
日本のいいところは全てシステム化されているところだと思います。研修医や専修医のカリキュラムは徹底しているし、何をどうすれば先に進めるのかレールに乗っていれば安心です。自分から何も言わなくても周りと同じように進んでいけば一人前になれると思います。そして、日本には日本特有の「気遣い」「心遣い」の文化があり、皆、相手の気持ちを配慮して、言葉を選んだり、行動したりします。部下が困っていたら、見かねて上司が声をかけます。ドイツにも、もちろんそんな上司もいますが、かなり少数派です。何かと人に言われたことや失敗したことを気にする私にとって、日本はとても居心地のいい環境ですが、ぬるま湯につかり過ぎていたのかと思います。そして、気遣いすぎることが、逆に「遠慮」になってしまい、弊害となることもあるのだと思います。
私の留学先では、毎日昼の12時半から30分間勉強会をしています。毎日様々な医師が違うテーマで10~20分間のプレゼンテーションを行います。その中では、プレゼン中であってもどんどん質問や意見が飛びかい、プレゼンテーション後のディスカッションは毎回とても盛り上がります。質問者が納得した答えを得られるまでは、話し合いが終わらないので、時間が延長することもしばしばです。ときには、「私の質問は・・・!!!」とは声を荒げながら話をするので、端から見たら喧嘩しているのではと思うこともありますが、終わった後はとてもすっきりしていて、全く後腐れはなさそうです。年下の医師も年長の医師に向かって、物怖じせず質問しています。この積極的にディスカッションするのが自然な文化が、技術大国ドイツを作ってきたのではないかと思うし、遠慮しすぎる日本人に足りないところなのだと思います。
ドイツで日本人がどのように見られているのか、直接聞いたことがなく分かりませんが、少なくとも職場では、日本人だから、アジア人だから、欧米人だからという以前に、その人が「その場で実際に何を成すか」ということを注目されている気がします。私が留学先に来たときに、「これまで何をしてきたのか」と問われ、日本での臨床業務や研究内容を必死に伝えましたが、あまり良いリアクションは得られませんでした。私の上司にイラン人がいます。彼は仕事を何かと休みがちで、飄々とした存在ですが、ドイツ語はペラペラ、エコーの技術もかなり高く評価されており、Structural heart diseaseの症例では引っ張りだこ、カンファでもご意見番としてかなりの地位を獲得しています。そもそも数年しかいない留学生が短期間で実績を上げるのはとても大変なことだと思いますが、信頼を得るにはそれしかないのだと思います。
ドイツに来て、日本人にとって日本は本当に暮らしやすい国なのだなと感じました。ですが、時には勇気を出して外の世界にさらされないと、置いて行かれるのではないかという気がします。

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伊集院 駿(Jena, Germany)