TEEのストレイン解析は有用か?

私は、心臓リモデリングの研究室に所属しています。上司から経皮的デバイス植え込み後のフォローアップの患者リストを与えられ、心エコーの心筋ストレイン解析を用いて、リモデリング、リバースリモデリングの評価を行っています。
スペックルトラッキング法を用いた心筋ストレイン解析は、心エコーの分野で現在広く使用されています。解析値がメーカーや検者により多少の差異があるという点で、その評価にはまだ議論の余地がありますが、心筋全体の長軸方向のストレインであるglobal longitudinal strain (GLS)は、心不全患者の予後予測においてejection fraction (EF)より優れていたという報告もあり1)、測定も簡便であることから、その有用性が注目されています。
私が最初に与えられたデータは、デバイス植え込み前後に経食道心エコー(TEE)をフォローアップした患者リストでした。ストレイン解析は一般的にこれまで経胸壁心エコー(TTE)で行われてきました。TTEによるストレイン評価にはコンセンサスが存在します。ですが、TEEによるストレイン解析のコンセンサスは、ひたすら検索し、エコー専門の上司にも質問しましたが、見つかりませんでした。
TEEによるストレイン解析をTTEと同様に行ってもいいのか。
その疑問を解決するうえで、参考にしたのが下記の論文です。
 
タイトル: A Comparative Evaluation of Transesophageal and Transthoracic Echocardiography for Measurement of Left Ventricular Systolic Strain Using Speckle Tracking2)
雑誌名: Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia 2012: 17; 17-25
著者: Carlo E. Marcucci et al, Duke University Medical Center
 
同じ患者にTTEとTEEを同時に行い、それぞれの左室のストレインの解析値を比較検討した前向き研究です。ちょっと古い報告ではありますが、この他に同じことをしているものは見つけられませんでした。
Methodですが、弁膜疾患のない、冠動脈バイパス術施行前の25人の患者を対象に、検査を行いました。TTEの心尖部長軸像をTEEの中部食道断面と、TTEの傍胸骨短軸像をTEEの経胃短軸像に照らし合わせて相関をみています。
sunrise table1
参考文献2)から引用
下が結果です。
sunrise table2
sunrise table3
sunrise table4
いずれも参考文献2)から引用
GLSだけではなく、円周方向のストレインであるGlobal Circumferential Strain (GCS)も含めて相関をみています。散布図ではおおまかに相関しているようですが、相関係数は中等度です。この他にsegment同士の相関もみたようですが、こちらは有意な相関はありませんでした。
筆者の結論はこうです。「TEEとTTEのglobal strainの相関は中等度であった。これは両者の周波数や他のイメージングの違いによるものだろう。TTEとTEEは同じものとは言えないし、それを比較するのには限界がある。しかし、TEEは、高い再現性があるという点で、術中の心室の機能を見る上で有効なツールだ。」
なかなか苦しい結果となりましたが、両者から得られるストレイン値を同等のものととらえるべきではないが、同じ患者のストレイン値をTEEで得られた値同士で比較するのには問題ないのではないかと解釈しました。
TEEのストレインの報告はあまり多くありません。ですが、この他にも、左心耳のストレイン解析を行い、左心耳内血流速度との相関や血栓形成との関連をみた、以下のような興味深い報告もあります3)
今後さらに出てくるSHD interventionデバイスの植え込み後のフォローのことを考えると、やはりTEEのストレインの指針は必要だと思います。個人的には、TEEでのストレイン解析の妥当性を証明する論文がいっぱい世に出て、コンセンサスができることを願います(笑)。
<参考文献>
1)    Sengelov M, et al, (2015) “Global Longitudinal Strain Is a Superior Predictor of All-Cause Mortality in Heart Failure With Reduced Ejection Fraction,” JACC Cardiovasc Imaging; 8, 1351‒1359.
2)    Carlo E. Marcucci, et al, (2012) “A Comparative Evaluation of Transesophageal and Transthoracic Echocardiography for Measurement of Left Ventricular Systolic Strain Using Speckle Tracking,” Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia 17, 17-25.
3)    Akihito Miyoshi et al, (2018) “The feasibility of substituting left atrial wall strain for flow velocity of left atrial appendage,” Acta Cardiologica 73, 125-130.

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伊集院 駿(Jena, Germany)