2年間で出来ることは…

思えば去年の今頃は、SUNRISEのプレゼンの練習をしていましたが、怒涛のように日々が過ぎ去っていきます。渡米からも6か月間があっという間に過ぎ去り、”光陰矢の如し” ”Time flies”なんて陳腐な台詞しか浮かびませんが、日本でもアメリカでも、時間はすべての人に平等に流れており、同じように過ぎ去るのは早いと感じているようです。今のところ、自分の中で成長を感じることもありますが、理想とする自分の成長曲線の予想は下方修正を迫られており、焦りを感じている今日この頃です。
さて今回のレポートでは、留学先の現在取り組んでいる研究と今後の展望について、お伝えしたいと思います。

skate rink

冬の間のアクティビティは多くはありませんが、こちらのスケートリンクは広くて、空いているので、大いに楽しめました。

 <後向き研究>

現在、上司であるAyman Husseinと進めている研究では、新たな3Dマッピングシステムを用いた心房頻拍の診断に関する研究を行っています。
ご存じの通り不整脈カテーテルアブレーション業界では、3Dマッピングが治療に広く活用されています。3Dマッピングシステムでは、現在日本でも世界的にも主に3種類のマッピングシステムが使用可能で、CARTO、Ensite、Rhythmiaという3種類マッピングシステムが臨床応用可能となっています。不整脈業界では、施設やスタッフにより使用するマッピングシステムの比重が異なり、私の所属するクリーブランドクリニック(以下、CCF)では、CARTOに対する親和性が高く、CARTO: 8-9割, 残りがEnsite, Rhythmiaというような塩梅で使用されています。Biosense Websterが提供するCARTOシステムは3Dマッピングシステムの最古参であり、私も渡米前から主に使用していたのはCARTOだったのでなじみやすいです。
心房細動カテーテルアブレーション後に生じる心房頻拍は、解剖学的な絶縁構造物(僧帽弁など)、患者要因で存在している線維化や過去のカテーテルアブレーションにより形成された心筋の変性により、複雑な回路となることが知られていますが、3Dマッピングシステムでは、この心房頻拍の回路のアクチベーションマップを作成することで可視化することができます。あるreference pointを設定し、任意の場所とreference pointまでの時相差(time annotation)により心房内を色付けすることで、グラデーションとして3D表示することができます。なお、現在3社すべてのマッピングシステムで、auto-time annotationが利用可能です。
その上で、現在のCARTOシステムの問題点としては、局所の心内心電図には少し離れた場所の電気信号も混入してくることから、正しいtime annotationは必ずしも容易ではないということがあります。正しくtime annotationできないと、得られる画像はモザイク状に見えてしまいます。こうした欠点を補うために新たなシステムでは、画像処理を行うことで周囲のポイントも加味してtime annotationを行うことができ、局所で信号がどの方向に進んでいるのかをvectorで表示することも可能です。同様のアルゴリズムは、Boston Scientific社から提供されているRhythmiaマッピングシステムでも搭載されていますが、使用可能なカテーテルの違いや、細かなアルゴリズムの違いがあり、一長一短があります。

殺風景な部屋ですが、雰囲気を少しでも出すためにツリーを飾ってみました。

殺風景な部屋ですが、雰囲気を少しでも出すためにツリーを飾ってみました。


私はこのアルゴリズムを用いてCARTOのオフライン解析を行っており、今はあまり細かい結果に関してお伝えすることはできませんが、直感的にも新規のマッピングが既存の画像処理を上回ることが分かるため、臨床的にも有用だと考えています。この研究の結果を現在執筆中ですので、近い将来、良い結果を報告できればと思います。
また、心房細動に関する後ろ向き研究を行っていますが、残念ながらこちらはしばらく芽がでそうにありませんし、新規の後ろ向き研究にとりかかり始めていますが、いずれにしてもしばらくは試行錯誤を繰り返すことになりそうです。CCFに来て半年がたち、後ろ向きに集めるデータの量は日本とは比較にならないほど膨大ですが、質は日本と比べて決して高くはないと感じています。こちらでは、診療のコスト意識も高く、不要な検査はやらないという姿勢が影響しているのかもしれません。

<今後のこと>

こちらに来て比較的早期の段階から、上司のプロジェクトでRCTの立ち上げに関わらせてもらっています。RCTというと聞こえはいいですが、私が考えたresearch questionではなく、アイディアを与えてもらって、現在はプロトコールの詳細を議論しているところです。とはいえ、立ち上げに際して組み込み基準を吟味したり、統計家に質問しに行ったり、なかなか今までの自分の環境ではできないことも多いので、学ぶ良い機会なのかなと思っています。
どうしても、一刻も早く目先の成果が欲しいこともあり、後向き研究の解析に四苦八苦している状況ですが、こちらでは何か面白そうな題材があれば、「前向き研究やってみよう」という風潮があります。「収穫」を待たなくてはならないので、短期で参加している留学生としては、結果を待てるほど余裕はないのですが、純粋に人的・経済的なリソースが豊富にあるならば、こちらの方がコストパフォーマンスがいいということなのかもしれません。

<その他>

最後に、研究とは全く関係ない出来事になります。
私は現在アパートの4階に住んでいますが、入居の時に家具の搬入で骨を折りました。生活をしていると必ずでるのがゴミですが、こうした家具も例外でなく、使わなくなったマットレスや椅子など、粗大ごみと呼ばれるものの処理は一苦労です(普通は)。通常は家から階段やエレベーターを駆使して入り口まで運ぶところですが、ところが先日衝撃的な破棄方法を目にしました。
物音がするなと思い、窓の外に目を向けると、斜め上の階の住人が、不要と思われる家具を次々に窓から地上に放り投げているのです。。
運ぶ手間が省けていいですね、というか、これってありなんでしょうか? え、危なくないの? 色々な疑問が浮かびましたが、すべて落とし終わり、業者(と思われる作業員)が回収して何食わぬ顔で回収していきました。常識って何なのでしょうと考えさせられました。

見た目は上手く伝わりませんが、買って1週間程度の牛乳が、冷蔵庫内でヨーグルトになっていました....もちろん食べられないので破棄。

見た目は上手く伝わりませんが、買って1週間程度の牛乳が、冷蔵庫内でヨーグルトになっていました….もちろん食べられないので破棄。恐るべき、walmart quality。

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黒田 俊介(Ohio, USA)