洞調律か心房細動か、それが問題だ

今回のリポートは最近の論文ということで、表題について少しお話ししたいと思います。
周知のとおり、少なくともAFFIRM試験が行われた時代から、心房細動は発作性と持続性心房細動という、開始と停止までの時間に重きを置いた用語が用いられていました。ところが、CHADS2やCHA2DS2-VAScスコアといった脳梗塞リスクを考慮する場合には、この発症様式は考慮せず、抗凝固療法の適応が決まっています。事実、2012年にNEJMに掲載されたASSERT研究の結果では、植込み型デバイスでのみ検出されるようなわずかな「心房細動」(この研究では、6分間以上のatrial high rate episodeを心房細動と定義しています)が脳梗塞の発症と相関関係にあることが示されています[1]。この結果をシンプルに解釈すると、問題なのは「心房細動」の有無であり、これを2値変数として解釈して、治療を決定することになります。
それ故、AFであることを診断するためのスクリーニング方法は非常に重要と考えられており、2017年にもヨーロッパ不整脈学会が主体となりアメリカ、アジア太平洋、南アメリカの学会と合同でAFのスクリーニングに関するstatementが出版されています。また、ハイリスク患者へのスクリーニングはループレコーダーなどを用いた研究も進んできています。2017年に報告されたREVEAL AF研究では、CHADS2リスクの高いAFの罹患歴のない対象394人に対して植込み型ループレコーダーを用いてAFの新規発症を調査したところ、12か月で27.1%に6分間以上持続のAFが検出されたという結果が報告されました[2]。この研究が睡眠時無呼吸などのAF発症リスクの高い患者が多く含んでいるというの事実を差し引いても、3割というのは極めて高い割合です。
一方、近年では非侵襲的な検査方法も進歩しています。Wearable deviseのApple Watchでは、2つの方法で心拍リズムの自動解析が可能です。一つは、腕に装着した時計と装着していない腕を12誘導心電図のⅠ誘導のようにデバイスに接触させて、文字通り心電図の解析を行う方法です。心電図の解析が可能ですが、一方で当然ながらその他の誘導の情報は得られませんし、両手を意図的に接触させる必要があるので、持続的なモニタリングは困難です。2つ目は、内臓されたカメラを用いてPPG (酸素飽和度測定のようなもの)からリズムを検出する方法です。こちらでは、持続的な測定が可能である一方で、心電図ではないので、P波などが検出できないなど、期外収縮発生時に正確性が劣るとされています。長短はあるものの、スクリーニングという点では、有効であると思われます。最近では、これらのツールの診断精度の検証が進んでおり、前者では自動診断アルゴリズムを専門医の診断と比較した際の感度・特異度は、それぞれ93%、97%であり[3]、後者はApple watchでの心電図診断と比較して、感度・特異度が、それぞれ93.7%、98.2%と高い値であることが示されました[4]。私が研修医であった頃に山下武先生の「心房細動に出会ったら」という本が出版されましたが、今や我々医師が出会う心房細動は、検出技術の進歩や社会的な認知度の高まりもあり明らかに増加しています。REVEAL AFの結果を踏まえると、もはや「出会ったら」ではなく「出会います、もしくは非常に高い確率で罹患することが予想されます」という状況になっています。
いくら一生懸命スクリーニングをしたとしても、その後のマネージメントが変わらなくては意味がありません。私自身は、たとえ前出のASSERT研究の結果があったとしても、ペースメーカーなどのデバイスの読み込みの際にわずか6分間のAFが一度検出されたのみの患者への抗凝固の導入には躊躇します。また、ガイドラインに準じた治療を行う上では、一度内服し始めた抗凝固薬を中断することはないため、患者側にも相当な抵抗があるように思います。実際、こうした感覚は世界共通のようです。米国の退役軍人のデータを用いた解析でも、植込み型デバイスにより6分-1時間の心房細動が検出され、ガイドライン上の心房細動に対する抗凝固療法の適応があったとしても、抗凝固療法の処方は、わずか13%にとどまっていることが示されています[5]。これは、医師の治療方針の決定が、心房細動の有無ではなく、その持続時間や時間当たりに占める割合などで示されるAF burdenに基づいてなされているためであろうと推測しています。こうした考え方は合理性があるようにも思いますが、ただ現時点では、心拍リズムを持続的にモニタリングできるのは、ペースメーカー/ICDで心房リードが植え込まれている場合か植込み型ループレコーダーが植え込まれている場合に限られ、それ以外ではAF burdenの厳密な測定自体が困難です。また、現時点ではAF burdenを用いた治療決定が転帰に関連するというデータは極めて限られています[6]。
ただ、今後はこの分野の研究はより進んでいくのではないかと考えています。それは、上記のようにWearable deviseなどの非侵襲的な診断方法が進歩し、正確な診断が手軽に可能になること自体は喜ばしいことなのですが、半ば偶発的に発見されたAFをどのようにマネージメントしていくのかに関しての明らかな指針が定まっていないからです。また、今や心房細動に対する治療方法は薬物治療以外に、カテーテルアブレーションや左心耳閉鎖術なども選択肢として常識となりつつあり、心房細動の治療の目的が、脳梗塞・塞栓症の予防やQOLの改善だけであった時代から、心不全や死亡率の改善も含めるようになってきています。適切な治療方法を選択するためには、以前のように心房細動か否かの2値変数で抗凝固の処方だけを決定するのではなく、全体を評価し、明確な目標に向かって治療を最適化することが、今後我々に求められるのだろうと考えています。
【参考文献】
1. Healey JS, Connolly SJ, Gold MR, et al. Subclinical atrial fibrillation and the risk of stroke. N Engl J Med. 2012;366(2):120-129. doi:10.1056/NEJMoa1105575
2. Reiffel JA, Verma A, Kowey PR, et al. Incidence of Previously Undiagnosed Atrial Fibrillation Using Insertable Cardiac Monitors in a High-Risk Population: The REVEAL AF Study. JAMA Cardiol. 2017;2(10):1120-1127. doi:10.1001/jamacardio.2017.3180
3. Bumgarner JM, Lambert CT, Hussein AA, et al. Smartwatch Algorithm for Automated Detection of Atrial Fibrillation. J Am Coll Cardiol. 2018;71(21):2381-2388. doi:10.1016/j.jacc.2018.03.003
4. Dörr M, Nohturfft V, Brasier N, et al. The WATCH AF Trial: SmartWATCHes for Detection of Atrial Fibrillation. JACC Clin Electrophysiol. 2019;5(2):199-208. doi:10.1016/j.jacep.2018.10.006
5. Perino AC, Fan J, Askari M, et al. Practice Variation in Anticoagulation Prescription and Outcomes After Device-Detected Atrial Fibrillation. Circulation. 2019;139(22):2502-2512. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.118.038988
6. Chen LY, Chung MK, Allen LA, et al. Atrial Fibrillation Burden: Moving Beyond Atrial Fibrillation as a Binary Entity: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2018;137(20):e623-e644. doi:10.1161/CIR.0000000000000568

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黒田 俊介(Ohio, USA)