高脂血症の治療薬であるスタチン製剤は動脈硬化性疾患の各ガイドラインでもClass Ⅰに位置づけられる今やなくてはならない薬剤の一つです。またコレステロール低下作用に加えて、抗炎症作用や血管内皮機能の改善作用などの多種多様な能力が報告されています。今回は幹細胞による再生医療とスタチンの併用について検討している動物実験の論文レビューを紹介します。
Stem Cell Rev. 2016 Jun;12(3):327-39. doi: 10.1007/s12015-016-9647-7.
Use of Statins to Augment Progenitor Cell Function in Preclinical and Clinical Studies of Regenerative Therapy: a Systematic Review.
Park A, Barrera-Ramirez J, Ranasinghe I, Pilon S, Sy R, Fergusson D, Allan DS.
このレビューでは間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell; MSC)、内皮前駆細胞(Endothelial progenitor cell)とスタチンの併用による各疾患への効果についてまとめられています。このレビューで紹介されている疾患の中でも心筋梗塞モデルについて取り上げてみましょう。
心筋梗塞を作成したブタ、ラット、マウスにスタチンを投与し、その後MSCを心筋注入した効果を検討しています。ここで注目されるのはエコー上のEFについてで、各報告でMSCとスタチンが併用されている群で有意な改善効果が示されました。ブタのような大動物でEFの改善が示されたことは今後の臨床試験に対しても大きな意義がると思います。このスタチン併用による改善効果の機序としてPI3K/Akt・ERK経路やeNOS産生の亢進及び活性酸素の阻害による細胞アポトシースを抑制することが報告されています[1-3]。
スタチン製剤はがん細胞に対して増殖抑制作用があると報告されている一方で、幹細胞に関しては逆の効果が報告されているのは非常に興味深いですよね。
最近発表された報告ではメトフォルミンについてもマウスモデルで同様な心筋梗塞モデルを用いた報告がされています[4]。今後、これらの動物実験の結果をもとに既存の薬剤と幹細胞との併用療法に関する臨床試験も進むかもしれませんね。