”アメリカあるある”な毎日

一日の業務は細胞培養、動物実験(マウス、ラット、ブタ)が主なものになります…といいつつも私はまだ動物取扱に関する手続きがようやく終わったばかりで実験自体は10月中旬から始まったばかりです。基本的に来た当初の1か月間は実験の見学、関連する論文を読むことが第一になります。アメリカあるあるで、渡米前に伝えられていたオリエンテーションの日程は予約枠がいっぱいとのことで、2週間はどこにも入ることすらできない日々でした。このオリエンテーションの日程にあわせて渡米していたので正直、は!?って感じですがこれぐらいでイラついているとすぐ胃に穴が開きます。これはまだ1か月前の出来事ですが、それでも時間がもったいないと思ってグイグイ実験に介入していたら、“Don’t touch, Just read!”と言われたのが今となっては懐かしい思い出です。
さて、私は日本でPCIをしていたこともありカテーテル手技に関しては基礎的な知識がありました。とはいえ、カテーテルの知識が活きる機会はブタの実験ぐらいなもの。しかしブタの実験は諸費用が高く、最近ではあまりやっていないという話はボスからも他のスタッフからも聞いていました。そんな中、幸運にも10月に入りブタの実験が始まることになり、私もその実験に加わることができることになりました。これが私にとってLAで初めての“留学っぽい”仕事となりました。
最初の1例ぐらいはどんな感じか把握する為にアシストでいいよ、と言われていたのに気が付けば1例目からなんとなくオペレーターポジションに誘導されカテーテルを握らされたのにはやや焦りましたが、これもアメリカあるあるなのでしょうね。この実験で最も印象的だったのは初めてヒトの幹細胞を扱った時です。今まで論文の中での出来事であったことが実体験になった瞬間には非常に興奮を覚えました。まさにこういうことをやる為に留学に来たわけで、この日のことは今後も忘れることはないでしょう。
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ブタ実験に立ち会う同僚達
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あの有名なカテーテルも今私のいる場所から生まれたのですね(右:Dr. Swan、左:Dr. Ganz; 1970)
さて、ブタの心臓に対する治療効果の判定には染色、撮影後に計測することになるのですが、この計測作業は完全にマニュアルとなります。心筋の辺縁をなぞるように囲っていく作業で(IVUSで内腔を計測する時のように)、このカテーテルから計測までの流れは日本にいる時に行っていた実験、研究と冠動脈が心筋に変わったというだけでかなり似ています。循環器分野と言えどかなり異なるものと思っていましたが、意外なところでつながりがありました。今後機会があればラットやマウスなどの実験モデルにもかかわっていきたいと考えています。
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私のいつも通うDavis Research Buildingの入り口にあるまさに実験棟!なポスター
今私が紹介できる業務内容は以上になります。ここからは今回のテーマからはずれてしまいますが、今後留学生の中で必ず同じ状況の方が出てくるであろうと考えここで報告します。私は今年の9月に留学となりましたが、実際の留学手続き自体は3月ぐらいから始まりました。実はちょうど手続きが始まった頃、私の妻が妊娠3か月だったのです(予定日は10月)…。
ここである問題が浮上しました。そう、それは“日本とアメリカどっちで出産するか問題”。「そんなのアメリカ国籍ゲットできるんだからアメリカに決まってるでしょ!」という人はここから先の話は読み飛ばしてください(笑)。
私達のバックグラウンドとして、まず語学力では私は日常会話がなんとか通じるレベル、妻はそれよりもさらにたどたどしいレベルでした。また無給で行く予定であった為留学先施設の医療保険は使えません。日本で加入できる海外医療保険も実は妊娠出産に関してはカバーしていないものがほとんどのようです(必要な方は実際に調べてみてください)。低所得者用の保険でカバーできるものがアメリカにもあるようですが、こちらは問い合わせのメールをしても一向に返事が来ず(笑)。たくさんの方に相談し、結局今回は日本で出産することになりました。やはり一から生活環境を整えなければならない状況で妊娠中の妻に同行してもらうのは負担が大きいと考えたからです。
渡米後にまずしたことはボスに妻の出産予定日を伝えることでした。すると、「おめでとう! 出産の時はぜひそばにいてあげなさい」というありがたいお言葉をいただきました。アメリカでは家族のことが最も重要であることを改めて実感しました。その他には、人事課の初回面談でDS2019をチェックされた際に一時帰国の日程を伝えたところ、その場でTravel validationにサインをしてもらえました。余談ですが実際の出産については、まさかの渡航前々日の破水→出産、立ち合いかなわず!というこれもアメリカあるある(…ないか)でした。日本帰国後は滞在2週間であらかた書類手続きを終え、名残惜しみながら再帰国となりました。皆さん、自分の子供は無茶苦茶かわいいですね(笑)、妻に感謝!
私は妻の精神的、肉体的側面を考慮すると日本での出産は正解であったと思います。但し、これはあくまでも私個人の話である為、もし同様の状況になった場合は周りのいろいろな方に相談することをおすすめします。もちろん、私も喜んで相談に乗りますよ!

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伊地知 健(Los Angeles, USA)