レジストリ研究の可能性を求めて

20167月より慶應義塾大学から米国のDuke Clinical Research Instituteへ留学しております猪原 拓と申します。このたび、SUNRISEReporterを務めさせて頂けることとなりました。よろしくお願い致します。

1.    なぜ留学しようと思ったか?

・臨床研究を求めて新設大学院へ

自分は、東北大学を卒業後、聖路加国際病院にて初期臨床研修、内科専門研修および循環器専門研修を行いました。循環器専修医として忙しく日々が過ぎていくなかで、漠然と、このままで良いのか?っという思いが湧いてきて、次のステップを模索していました。しかし臨床から離れることは考えられず、一方で研究にも興味があり、進路に関して非常に迷っている状況でした。そんななか、とあるメーリングリストから一通のメールが届きました。このメールこそが自分の人生を変えたと言っても言い過ぎではないと今でも思っています。その差出人は慶應義塾大学の香坂俊先生で、内容はというと慶應義塾大学に臨床研究に特化した大学院(医学研究科医療科学系大学院循環器プロフェッショナル養成プログラム)を新設したため、誰か入学を希望するものはいないか?というものでした。香坂先生の名前は学会や研究会でよく耳にしており、米国の臨床経験をもとにした切れ味の鋭い話に非常に興味をもっており、また臨床を継続しながら臨床研究のノウハウを学ぶことができるという自分の希望通りの履修内容であったため、縁もゆかりもない慶應義塾大学に、そして新設されたばかりの実績のない大学院への入学ではありましたが、香坂先生を信じて即座に入学を決意しました。

 

・2人の恩師との出会い

慶應義塾大学では2人の恩師と出会うことができました。一人目は先の香坂先生です。慶應大学大学院への入学後は、香坂先生の指導のもと臨床研究に没頭しました。扱ったデータベースは循環器疫学やPCIレジストリデータベース(KiCS-PCI:慶應義塾大学を中心とした関連15施設で展開している多施設前向きPCIレジストリ)が中心でしたが、その他にも急性心不全や心房細動のレジストリデータベースにも関わりました。その中でも、KiCS-PCIレジストリを用いた研究(PCIの適応適切性評価や造影剤腎症のリスクモデルに関する研究)が大学院での主要なテーマとなりました。

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香坂研究室の皆さん

二人目の恩師はSUNRISE研究会の代表もされている林田健太郎先生です。慶應義塾大学では大学院に所属する傍ら、カテーテル班にも所属させて頂きました。非常に幸運であったことに、自分が大学院に入学したタイミングで、林田先生がフランスから帰国されました。もともとSHDにも興味のあった自分は、林田先生にお願いしTAVIの立ち上げチームに加えて頂きました。当初、慶應義塾大学のTAVIチームも林田先生と自分を含め3名しかおらず、自分は大学院との掛け持ちであったため、林田先生には随分とご迷惑をおかけしました。TAVIチームでは知識や技術的なことだけでなく、多くの先生方との繋がりも生まれ、さらに林田先生から留学のことや今後の日本のビジョンなど多くのことを学ぶことができました。さらにTAVIレジストリの立ち上げに携わることができ、このレジストリが本邦における多施設レジストリであるOCEAN-TAVIレジストリに繋がっていることは非常に嬉しいことです。

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慶應TAVIチームの皆さん

・留学で何を突き詰めるか?

留学に関しては学生時代から興味がありましたし、香坂先生と林田先生という二人の恩師からも留学を積極的に勧めて頂いた影響で、大学院の2年目の頃には具体的に留学に向けて動き出しました。大学院で、臨床研究に関して色々と学び実践していくなかで、レジストリ研究の可能性について考えるようになりました。もちろん、臨床研究の王道はRCTであり、多くのガイドラインを変える研究がRCTから生まれることは疑いようのない事実と思います。しかしながら、現実世界を踏まえたレジストリ研究も、当該分野における現状の問題点を認識し、改善するための方策を模索するには絶対的に必要な研究と言えます。本邦でも多くのレジストリ研究が動いていますが、その運営方法やデータの活用方法に関してはまだ改善点が残されているのではないかと考えています。そこで、自分はレジストリ研究を突き詰める留学をすることとしました。

 

2.    なぜ現在の留学先を選んだか?

国家的なレジストリ研究は各国で進められておりましたが、自分のなかではやはり米国に行きたいという想いが強くありました。もともとKiCS-PCIを立ち上げた際に参考にしたものが、米国のNational Cardiovascular Data Registry (NCDR) CathPCIであり、またTAVIレジストリの立ち上げの際に参考の一つにしたものが、米国のSTS/ACC TVTレジストリでした。これらはいずれもAmerican College of Cardiology(ACC)の運営する学会主導のレジストリであるNCDRに含まれています。NCDRは現在、下記のレジストリを有しています。

 

ACTION Registry – CWTG

AFib Ablation Registry

CathPCI Registry

ICD Registry

IMPACT Registry

LAAO Registry

PVI Registry

STS/ACC TVT Registry

Diabetes Collaborative Registry

PNNACLE Registry

 

NCDRでは全米で約2,400もの病院が参加しており、コーディネーターが各々のレジストリの入力作業にあたっています。また入力されたデータベースを保険データ(Medicareなど)と突合させることにより長期予後や費用対効果の解析などを可能にしています。このようなレジストリデータベースから得られる情報は非常に有益であり、多くのpublicationももちろん生まれています。自分は是非、このNCDRについてもっと深く学び、レジストリ研究を突き詰めたいと考えました。そこで、留学先として候補に挙がったのがNCDRの総本山である、Duke Clinical Research Institute(DCRI)でした。

 

3.    留学までの道のり

DCRIについて色々と調べていくと、臨床研究に特化したResearch Fellowship Courseがあることが分かり、少ないながらもInternational Fellowも応募しているということが分かりました。そこで、CVとレジストリ研究にかける熱い想いを認めたPersonal Statementを送付したのち、Skypeでの面接、国際学会での面接、さらにDCRIを訪問しての面接を経て、留学が許可され、20167月より留学を開始となりました。CVPersonal Statementの送付から留学までは丸2年かかり、その間に色々なことがありましたが、SUNRISE研究会の皆様をはじめ、多くの方の支えでここまで来ることができました。この場をお借りして、お礼を申し上げたいと思います。

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猪原 拓(North Carolina, USA)