臨床研究のヒエラルキーを考えると、最上位に位置するのはランダム化比較研究であり、つまり「最新」の技術や薬物が既存のものと比較した場合により優れているかと比較する研究です。毎年、多くの「最新」の知見が発表されており、多くの研究者や臨床家の興味もそこに集中します。しかし、「最新」の知見を求めるだけが臨床研究でしょうか?
自分ももちろん「最新」の知見には興味がありますが、それ以上に現状の医療に興味があります。「最新」の技術や薬物が日常臨床に還元されるまでには長い年月がかかります。そうした未来に目を向けることももちろん大切ですが、現状の医療がきちんと行われているかを評価する方がもっと重要だと思っています。
例えば、BVSに関する最新の知見は非常に興味深いですが、現状においてPCIの施行前後に適切な薬物療法が行われているか、PCI施行の適応は適切であるかといったテーマの方が日常臨床のdecision makingさらにはアウトカムに直結していると思います。現状の医療において、コンセンサス(多くはガイドライン)の中で「当たり前」とされていることが「当たり前」に行われているかを評価(「医療の質(quality of care)」の評価)することで、改善すべき問題点を明確にすることができ、そして実際にそれを改善することで最終的にはアウトカムを改善することができると思います。
米国においてはこうした考え方は「Outcome Research」として定着しており、循環器領域における臨床研究の中核をなしています。実際に、国家規模のレジストリ研究の主眼も現状の医療の評価、それに伴うアウトカムの改善におかれています。例えば、American Heart Association(AHA)が運営するGet With The Guidelineはまさに医療行為がガイドラインに沿って施行されているかを評価するために作られたレジストリです。さらにAmerican College of Cardiology(ACC)が運営するNational Cardiovascular Data Registryでは、適切な医療行為の達成率が医療機関毎に評価され、各医療機関にフィードバックがなされるシステムが構築されています。こうした医療の質やアウトカムの評価は、reimbursementやpay for performanceといった経済的なインセンティブとして各医療機関に還元され、さらなる達成の動機付けともなっています。
こうした観点は日本の医療においては足りないように感じます。もちろん米国のやり方が全て正しいとは思いませんし、国民皆保険の日本に当てはまらない部分も多くあるかと思いますが、学ぶべきところは多いと思います。特に日本においては、医療の現状を把握する、つまり医療の質を評価するデータベース、手段、さらには基準がありません。近年、日本においても学会が中心となりレジストリを運営する流れになってきていますが、是非、こうした観点を取り入れていくべきだと思います。