留学開始から2ヶ月が経ちました。考えていた研究のいくつかが動き出し、本格的に忙しくなってきました。新しい経験ばかりでとても刺激的な毎日です。残念ながらドイツ語とダイエットは全く進んでいません。今回のテーマは留学先の生活と文化についてです。
1. 住環境
私の現在の住居は、職場からトラム、または電車でおよそ30分程度のGuemligenという街にあります。相変わらず運動する時間と気力が中々でてこないので、少し暖かくなったら自転車で通勤をしようかと考えています。 家賃は約18万円/月と、郊外にしては中々のお値段ですが、こちらの相場を考えると妥当な金額だと思います。東京の1LDKの狭い住居からは大分広くなっており、セントラルヒーティングのおかげで家の中はいつも暖かく、住み心地はとても良いです。
写真1. 家の内装。家具類はほぼすべて貰い物です。
写真2. 家の裏は芝生の公園になっていて、日中は子どもたちが遊んでいます。最近は雪が積もるようになり、ソリ滑りなどして遊んでいます。
近くにはあの金正恩が通っていた有名なinternational schoolがあることもあって、色んな国籍の方が住んでいます。日本人も多く、その意味でも過ごしやすい街です。駅前にはスイスの有名なスーパーであるCOOPとMIGROS、DENNERがあり、基本的なものはすべてここで揃います。その他、郵便局や銀行、タイ料理や中華などのレストランもあります。また、駅と反対方向に少し歩けば、地産の野菜や果物を売る農家があり、その先には大型の家具屋や映画館まであります。大体のものは徒歩圏内で解決できる一方で、山や川、花畑など、自然も溢れており、住環境は都心よりもずっと良いと思います。 家のすぐ前にトラムとバスの乗り場があり、ベルンの中心街にも20分ほどで出られますし、空港まで出てしまえば、往復1-3万円程度でヨーロッパ中いろんな国に飛ぶことができます。
2. ベルンの街
ベルンの街は、トラムとバスが夜遅くまで張り巡らされており、交通に関しては東京よりもはるかに便利に感じます。(これは意外な驚きでした。)料金は日本より高めですが、通勤用に790フラン(約9万円)で年間のパスを購入しており、街中は基本的に乗り放題になっています。 街自体の規模は、首都ということもあって、大都会ではありませんがそれなりに都会です。(少なくとも田舎で育った私はそう感じます。)百貨店から、様々な路面店まであり、日中は大きな市場も賑わっています。
写真3. 市街地のマーケット。新鮮な野菜やチーズ、加工肉の他、手芸品なども売られています。
ただ、中央駅構内を除けばほとんどが夕方5-7時頃には閉まってしまいますし、日曜日には殆どの店がお休みです。飲食店は開いていますが、こちらは中々のお値段です。(とはいえ東京も相当に高いので、そこまでギャップは感じませんでした。)もともと好物だったワインやチーズ、加工肉、チョコレートなどを探して街をさまようのはとても楽しいですし、車に乗る必要がないので、真っ昼間からテラス席でビールが飲めます。 街の歴史をたどりますと、もともと木造建築が主体であった街が西暦1405年の大火で消失し、その後に石造りの堅牢な街が作られたようです。それ以降、街並みが維持されてきたことで、中世ヨーロッパ都市の当時の姿を今に伝える貴重な街として、ユネスコの世界遺産に登録されています。旧市街は徒歩で簡単に回れてしまうほどの規模ですが、教科書で学んだ中世の歴史を感じながらの散歩は、飽きることがありません。
写真4. 旧市街の中の様子。観光客も多く、日中はとても賑やかです。
3. 食文化、食習慣
スイスはチーズやチョコレートが有名ですが、こちらの人は想像していたよりもはるかに頻繁に食べています。スーパーにはインスタント的なチーズフォンデュや、ラクレット用のチーズが大量に売ってありますし、チョコレートの種類も日本とは比べ物になりません(レダラッハというブランドのフレッシュチョコレートがおすすめです)。ベルンの地元料理としてはレシュティやベルナープラッテが有名なようです。基本的にチーズと芋、時々肉なので、美味しいのですが、日本人からするとやや単調で、飽きてしまう感じはあります。 チーズは日本と比べて圧倒的に安く、種類が豊富です。加工肉やスモークサーモンの種類も非常に多く、これも日本と比べると安い気がします。ビールやワインも日本より種類豊富で、値段も安く、酒とツマミが生き甲斐の人間には天国のような環境です。(ひとつだけ残念なのは、ポテトチップスが異常に高いことです。)野菜は東京と同じくらいでしょうか。お肉は大分高いように感じます。
スイスは、シャスラ種というぶどうを使った白ワインが有名です。全体の生産量が少なく、殆ど国内で消費されてしまうため、海外での認知度はあまりないようです。いくつかの有名な産地があり、産地ごとの特徴もあって面白いのですが、基本的には辛口のすっきりした味わいが多く、味の強い料理だと負けてしまいます。グリエールなど、塩気強めのスイスチーズや、チーズフォンデュ、ラクレットとはよく合うので、よくできたものだなと思います。和食との相性も結構良いように思います。種類は非常に豊富で、安いものでは5フランくらいから、高いものでも2,30フランの価格帯で購入できるため、デイリーワインとして色々楽しむことができます。
4. スイスの人々の価値観
まだわずか2ヶ月しか住んでいない私に、スイス人の価値観は語れないと思います。またここに在籍するfellow達は多国籍のため、純粋なスイス人との交流もあまりないというのが実情です。ですのでスイス人の、というよりは欧米人の価値観という話になってしまうと思いますが、来てすぐに感じたことは、仕事のシステム含め、あらゆることが非常に合理的でかつ、資本主義的であるということです。分業体制がしっかりしているため、こちらでは一人の医者が何日も病院に泊まり込んだり、当直明けにそのまま日付を越えて仕事をしたりということはありません。多忙な循環器内科医でさえ、夕食の時間には家に帰っています。また、昨今日本で話題になっている女性医師問題ですが、こちらではすでに医学部入学者数は女性が上回っているようです。確かに病院を見渡しても、女性医師の数は多いと思います。ただ、少なくとも今の施設には女性のインターベンション医はいませんし、上位のポストは殆ど男性医師が占めています。日本で懸念されている通り、女性は出産などでキャリアの中断を余儀なくされる場合が多く、体力的な問題もあって、外科系や、緊急の呼び出しが多い仕事は避けられるようですが、これは当然のこととして受け止められています。また、一方で女性側も、男性と同等には手術等の経験は積みにくいこと、業績を挙げて上位のポストにつくのが難しいことは当然のこととして受け止めているように思います(これは一般的な話ではなく、医師という多忙かつ時間や経験の融通が利かない特殊な仕事においての話です)。
医学部入試の点数操作はやはり間違っていますし(こちらでも少し話題になりました)、後進的なやり方だと思いますが、そうさせてしまっているのは、日本の文化的、システム的な背景であり、特定の医大を責めて解決する問題でないことは明らかだと思います。また、男女差別とも全く別の問題だと思います。医療者側ももちろんですが、医療を受ける側も変わっていかなくてはなりませんし、ひいては日本全体として考え方、文化が変わっていかなくてはいけないのだと思います(この内容は、第6回のトピックでまた少し触れたいと思います)。
大学側が自己の責任を認めて謝罪し、とりあえず相手の溜飲を下げるというやり方は日本の文化だと思いますが(こちらでは謝るかどうかなど本当にどうでもよいことのようです)、それで熱が少し冷めてしまうと、結果的に本質的な問題はいつまでも先送りにされてしまいます。なぜそういう事態に至ったのかを、責任追及からは離れてフラットに議論をすることでしか本質的な問題解決にはつながらないと思いますし、それこそが渦中の人間の責務だと思いますが、そうすると日本では、見苦しく弁明している、往生際が悪いなどと捉えられてしまうのではないでしょうか。謝罪の文化は、一見美徳のように見えますが、問題解決のためには何の役にも立ちませんし、むしろ障害にすらなり得ます。とても感情的で、非科学的に見えてしまうかもしれません。日本は間違いなく優れた先進国の一つですが、欧米の目線ではまだ後進的に見えてしまう部分があることも知っておく必要がありそうです。