冬の始まりとコロナ

留学を開始して2ヶ月が経ち(2020年11月現在)、少しずつドイツでの生活や仕事に慣れてきたかなと思います。もちろん言語をはじめとする問題がまだまだ山積していますが、少しずつ進めていければと思っています。

ドイツの夏は日照時間も長く、ポカポカと暖かく、とても気持ちのよい毎日でした。しかし、9月終わり頃から急に季節が変わり、どんどん日照時間が短くなり、雨がしとしとと降り続くようになりました。気温も少しずつ下がって、秋を通り越して一気に冬に突入に突入するような気配です。

そうした季節の変化に伴って、他のヨーロッパ各国と同様にドイツにおいても新型コロナウイルスの感染者数が増多傾向にあります。ドイツはマスクの着用はスーパーなどの店舗内かバス・電車などの公共交通機関の中でのみ義務化されていて、夏は屋外でマスクをしている人は全くいませんでした。しかし、10月頃からは屋外でもマスクをしている人が徐々に増え、マスクをしていないと通りがかりの人から注意をされるほどになりました。そして、11月からはドイツにおいて再度ロックダウンになりました。幸い外出制限などはなく、レストランの閉鎖やプライベートでの多人数での集会がされている程度であり、現時点で私の生活への影響はほとんどないものです。しかし、今後患者数が増多する場合は制限も強化されるかもしれません。

(写真: 一応ロックダウン中の街の風景)

病院では、休憩室やカンファレンスルームの人数制限が設けられましたが、カテーテル治療のスケジュールなどは特に変わらずに淡々と治療が進められています。そんな中、ある日インターベンション医の中から新型コロナウイルスの感染者が一人でてしまいました。しかし、他の医師たちは平然とPCRで検査を受けて陰性を確認し、感染予防を再確認するなどして、何事もなく通常業務を続けていました。幸いそこからの感染拡大はなかったのですが、新型コロナウイルスを身近に感じると同時にドイツの医師たちのコロナウイルスへの慣れにやや驚きました。

 

・留学先業績

ボン大学の弁膜症チームでは大動脈弁、僧帽弁、三尖弁に対するカテーテル治療を広く行っています。

すでに大動脈弁狭窄症に対するTAVIや僧帽弁閉鎖不全症に対するMitraClip,などに関するデータは多く報告され、日本も含めて世界で一般的な治療として認知されてきていると思います。現在、ボン大学においては、それらの日本で使用可能なデバイス以外にも多岐にわたるデバイスを用いて治療を行っています。

僧帽弁に関しては、最近では経カテーテル僧帽弁置換として心尖部アプローチのTENDYNE、経中隔アプローチのHighLifeなどのデバイスでの治療を行いました。一方で、弁輪形成のCardiobandやMitralignなどは最近ではあまり使われなくなってしまっています。また、三尖弁に対しても主にTriClipやPASCALなどのedge-to-edge repairのデバイスを用いて、定期的に治療を行っています。

ドイツの弁膜症治療の特色として、使用可能なデバイスの種類が多いことが挙げられます。治療オプションが多いため、難しい症例などはあまり一つの治療法に拘らず、他のデバイスでより良い治療ができないかと議論されます。そうした治療の選択肢が多いことは好ましいことですが、反面として治療経験が浅いデバイスが多いことも確かです。当施設ではそうした新規デバイスを積極的に導入しています。上述の経中隔アプローチの僧帽弁デバイスのHighLifeもそのうちの一つです。私が赴任した後に初回症例があったのですが、他国の医師とオンラインで中継しながら治療を行っていました。もちろん世界をみても治療経験が乏しく、ノウハウも確立していないため、手技時間はかかりますがディスカッションを行いながら治療を進めます。こうした初期導入施設として、失敗できないプレッシャーは相当なものだと推察します。今後、これらのデバイスのうちいくつが世界的に広まっていくかどうかはわかりませんが、いろいろな治療コンセプト、デバイスなどを体験できるのは海外施設に留学する一つの強みだと思います。

(写真: Highlifeの初回症例を行った際のハイブリットカテ室の様子)

同時にそのような新規デバイスの初期治療成績を当院から多数報告しています。Edge-to-Edge repair のMitraClip (1)、TriClip (2,3)や Annuloplasty のCardioband (4)などです。治療の安全性や逆流の改善効果に加え、自覚症状の改善効果などを報告しています。ただし、いずれもコントロールのないsingle armの観察研究であり、治療効果に関してはまだ断定的なことは言えません。ただ薬物治療群とpropensity score match した報告ではカテーテル治療での予後改善効果が報告されており(5)、今後のRCTでも良い結果が得られるのではないかと予想されています。

三尖弁逆流に対する単独手術は十分な予後改善効果が示せていないこともあり(6,7)、より侵襲の少ないカテーテル治療に対する期待度は大きいです。外科的手術における問題点としては、手術の治療効果と比して侵襲度や併存疾患のバランスが釣り合っていないことが考えられ、実際、海外のデータを見ていても周術期合併症のリスクは高いです。そのため、より侵襲性の低いカテーテル治療への期待度が大きくなっているという訳です。しかし、私がボン大学に着任してから20-30件程度の三尖弁治療が行われましたが、僧帽弁治療のように逆流が大きく減少するという症例はなかなか少ない印象で、治療手技や患者選択に関してもまだまだわからないところが多いと思います。現在、三尖弁カテーテル治療のデータは各デバイス毎のトライアル と欧米の他施設共同レジストリー(TriValve)から報告されているものがほとんどです。最近になって単施設の治療件数が蓄積されてきたこともあってか、ドイツの単施設や少数の他施設レジストリーからの報告も徐々に増えてきています。同様に当施設からも積極的にデータを出していければと思っています。

 

参考文献

  1. Nickenig G, Kowalski M, Hausleiter J et al. Transcatheter Treatment of Severe Tricuspid Regurgitation With the Edge-to-Edge MitraClip Technique. Circulation 2017;135:1802-1814.
  2. Lurz P, Stephan von Bardeleben R, Weber M et al. Transcatheter Edge-to-Edge Repair for Treatment of Tricuspid Regurgitation. J Am Coll Cardiol 2021;77:229-239.
  3. Nickenig G, Weber M, Lurz P et al. Transcatheter edge-to-edge repair for reduction of tricuspid regurgitation: 6-month outcomes of the TRILUMINATE single-arm study. Lancet 2019;394:2002-2011.
  4. Nickenig G, Weber M, Schuler R et al. Two-year Outcomes with the Cardioband Tricuspid System from the Multicentre, Prospective TRI-REPAIR Study. EuroIntervention 2020.
  5. Taramasso M, Benfari G, van der Bijl P et al. Transcatheter Versus Medical Treatment of Patients With Symptomatic Severe Tricuspid Regurgitation. J Am Coll Cardiol 2019;74:2998-3008.
  6. Dreyfus J, Flagiello M, Bazire B et al. Isolated tricuspid valve surgery: impact of aetiology and clinical presentation on outcomes. Eur Heart J 2020;41:4304-4317.
  7. Axtell AL, Bhambhani V, Moonsamy P et al. Surgery Does Not Improve Survival in Patients With Isolated Severe Tricuspid Regurgitation. J Am Coll Cardiol 2019;74:715-725.
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田中 徹(Bonn, Germany)