ボン大学ハートセンター 田中徹
今回は、JACC imagingに掲載された三尖弁閉鎖不全症(TR)のエコーによる重症度評価に関する報告を紹介いたします(1)。
【Background】
三尖弁弁輪の拡大や弁尖のテザリングによって生じる二次性三尖弁逆流(TR)は心不全患者において予後規定因子であることが報告されています。そして、重症度がMildからSevereになるにつれてそのリスクは段階的に増して行くことが知られています。その二次性TRの重症度評価は従来、僧帽弁閉鎖不全症と同様のエコーパラメーターで逆流を評価し、MildからSevereの3段階に分類されていましたが、近年の三尖弁カテーテル治療の登場により、その二次性TRの重症度評価に変化が生じています。
三尖弁カテーテル治療は、有症状の高度の二次性TRが対象となることが多く、概してベースラインの逆流量がかなり多いです。そのため、カテーテル治療で逆流を減らしても重症度分類としては術後もSevereのままで変わらないという症例が散見されてしまいます。しかし、そのような症例であっても症状や運動耐容能の改善が得られるなど、カテーテル治療による治療効果が認められることがわかってきました。そのため、そのようなカテーテル治療前後のTRの変化と治療効果を擦り合わせるために、これまでSevereとしてひとまとめにされていた高度の二次性TRを更に細分化することになりました。新たに”Massive”と”Torrential”というgradeが追加され、5段階評価で分類されることが提唱されています(2)。
Visual assessmentに加え、定量評価としてVena Contracta, EROA, Regurgitant volumeをあわせて評価することになっています。この5段階での重症度評価はカテーテル治療における有用性が証明されており、カテーテル治療によって5段階のうち1段階でもTR重症度が減少すれば、症状の改善などが得られることが報告されています。また、ベースラインのTRの重症度がカテーテル治療後の予後と関連していることも報告されています。
しかし、このMassive やTorrentialといった重症度評価の有用性はカテーテル治療を受ける患者群に限られており、一般的なTR患者群に対しては十分に検証されていませんでした。本研究では、一般の患者群において、そのVena ContractaおよびEROAを用いたTR重症度評価の有用性を検証しています。
【Methods】
対象:オランダのLeiden Universityで1995年から2016年にかけてModerate以上のTRを指摘された患者
除外:
すべての患者は経胸壁心エコーでTRの重症度をVena contractaおよびEROAで評価されています。旧重症度評価(3段階)と新重症度評価(5段階)でTRの重症度評価を行い、それらの重症度毎のエコー診断時からの生存率を比較しています。
【Results】
合計で1,129名の患者が解析され、年齢は72歳(中央値), 50%が男性です。TRの重症度に関しては、3段階スケールでModerate 79%, Severe 21%という分布です。
5段階スケールで用いられているVena contractaおよびEROAのそれぞれのカットオフでグループ分けしたKaplan-Meier曲線が下図の通りです。どちらのパラメーターも全体では予後と関連が見られました。詳しくみていくと、Vena contractaはModerateとSevere以上、EROAではMassive以下とTorrentialとで死亡率が別れていく結果であり、Vena contractaはModerate とSevere の境界、EROAはMassiveとTorrential の境界、の判断に有用である可能性が示唆されます。
これを受けて、本研究では新たな重症度アルゴリズムを作成しています。Vena Contracta≧7mmでSevere以上とし、そこから更にEROA (cut-off: 80mm2)を用いてSevereとTorrentialに分類するというものです(Massiveはなくなってしまいました…)。
新しいアルゴリズムを用いることで、これまでのvena contractaとEROAのそれぞれのカットオフによる重症度分類で見られていたオーバーラップが整理されることになりました。
そして、新しいアルゴリズムによる各TR重症度における、その他のエコーパラメーターが下の表にまとめられています。TRの悪化に伴い、左室機能の低下に加え、右室の拡大・収縮能低下などが認められます。また、三尖弁の形態に関してもTR重症度に比例して弁輪の拡大傾向を認めています。
生存率に関しても、新しい重症度の間で有意な差を認めています。単変量のCox比例ハザード解析で、新アルゴリズムの重症度分類は生存率と関連しており、患者背景やその他のエコーパラメータで補正しても、Torrential TRはModerate or Severe TRと比較して高い死亡率との関連が見られました。一方で、従来の3段階評価でのSevere TRは生存率との関連は認められませんでした。
【結論】
Vena contractaおよびEROAを合わせた新しいアルゴリズムのTR重症度評価が二次性TRの生存率との関連が認められました。
【まとめ】
二次性TRの患者群においてエコーでの重症度評価を検討し直した研究です。大きなpopulationで、かつ、長期予後との関連を評価できたこと、二次性TRの患者に限定できたこと、などがインパクトのある点だと考えられます。また、これまで独立して評価されていたvena contractaとEROAを組み合わせて、新たな重症度評価アルゴリズムを提唱することで、各評価項目がオーバーラップして判断に困っていた患者でもきちんと分類できそうです。予後との関連をみても新しい重症度評価は、これまでの3段階の重症度スケールと比較しても有用性が高いと感じられます。
Vena contractaがmoderate〜severeの評価に有用で、EROAがmassive〜torrentialの評価に有用という解析結果も面白いですし、理にかなっていると思います。二次性TRは弁輪拡大に伴う重症化の可能性が指摘されており、最初はAnterior方向に拡大していき、その後はPosterior方向へ拡大をしていくと考えられています。つまり、逆流ジェットも初期の幅広のジェットから、重症化に伴って、より奥行きをもった大きな円状のジェットへと進展していきます。そのため、初期は1次元的な評価であるVena contractaで評価できても、円状になってくると2次元的なEROAでの評価が適切であるということは病態生理にも則していると考えられます。
今後は、本研究でも示された重症度評価とInterventionにおける重症度評価とをすり合わせていくことが必要と考えられます。
References