3月になりロックダウンが部分解除になり、数ヶ月ぶりに美容室で髪を切ることができました。ワクチンの接種も少しずつ進んでいますが、ドイツ国内でのコロナ患者数が再度増多傾向にあり、今後の展開が少し心配です。
今回のテーマは”留学先で取り組んでいるトピックス”ということで、私の今の研究の状況などをお伝えできればと思います。
基本的に弁膜症に対するカテーテル治療のデータベースの解析が私の主な研究内容となっています。
以前のレポートにも記載しましたが、ボン大学では一施設で多くの症例数の弁膜症治療を行っています。症例の配分はカテーテル治療全体の60%ぐらいが大動脈弁治療で、僧帽弁治療は30%ぐらい、三尖弁治療は10%ぐらいの割合で手技を行っています。ヨーロッパに来て、改めてTAVIの需要の高さを認識しました。連日多くの症例の治療が予定されていますし、日本だったら外科手術に回るような年齢や背景の患者もTAVIでどんどん治療しています。また、合併症もほとんどなく、安定した治療手技として確立されていると感じます。TAVIは今後も世界で大きく拡大していく治療だと再認識しました。
一方で、僧帽弁治療や三尖弁治療はまだまだ発展途上の印象です。特に三尖弁の治療手技に関しては、手技の習熟にまで時間を要すると思います。最初にMitraClipを見たときは手技もデバイスもかなり複雑な印象を持ちましたが、三尖弁治療はそれ以上の複雑さでした。デバイス自体はMitraClipとそこまで大きな違いはありませんが、エコー画像の理解を含め治療を三次元的に把握するのが非常に難しいです。いざ手技を行う際は相応のトレーニングを要する手技だと思います。
ボン大学に来てちょうど6ヶ月ぐらいになるのですが、今は主にボン大学のデータベースと多施設レジストリーのデータベースを用いて、僧帽弁治療と三尖弁治療の解析を行っています。まずは論文を書けることを示さなくてはと、小さなネタや、雑に無茶振りされたネタでもひとまず形にして論文にまで持っていくようにしています。以下に、それぞれの内容について、差し障りのない範囲でまとめてみます。
①僧帽弁治療について
ボン大学に加えて、同じ州にあるケルン大学、デュッセルドルフ大学の3大学の多施設レジストリーを作成しています。MitraClip治療を行った患者だけになるのですが、それぞれ症例数がしっかりあるので、まとめるとそれなりの数になります。単施設のデータベースだけではなく、なるべくその多施設データベースから論文を書くよう言われています。ただやはり単施設のデータベースと比べると、多施設データはデータ欠損なども目立つので、なんとか試行錯誤しながら解析しています。
多施設データベースですと、一般的な検査項目に関しての評価はできますが、あまり込み入った評価や解析は難しいです。特に僧帽弁は弁の性状などの形態や弁尖の可動性など、数値化できないところも多く、多施設データベースでの研究の難しさを感じます。ひとまず一般的な検査項目を用いた検討についていくつかまとめて、細かなエコーの解析を単施設のデータで進めていこうと画策しています。
僧帽弁カテーテル治療の主なターゲットとなりうる機能性MRは、MitraClipなどのEdge-to-Edge repairで予後は改善しえますが、基本的には対症療法だと思っています。ただ外科手術があまり良い成績を残せていないのに対して、MitraClipがCOAPT trialにおいて薬物治療に対してプラスアルファの有用性を示せたため、機能性MRに対する治療として広まってきています。一方で、MITRA-FRとの結果の相違に関する議論も残っており、MitraClipの治療効果のさらなる評価にはRESHAPE-HF trial (NCT01772108)などの他のRCTの結果を待つ必要があると思います。
カテーテル治療の最大の恩恵として、外科手術と比較して、手技自体の合併症のリスクは低く抑えられています。実際に大きな合併症はめったに起こりません。しかし、根本治療ではなく、弁尖をクリップで閉じるという非生理的な状態を作りだす治療であるため、治療により必ずしもベネフィットだけが得られるとは思えません。そのため、カテーテル治療によりベネフィットを得やすい患者、逆に得にくい患者などの患者選択であったり、術前の想定どおりベネフィットが得られているかの術後の評価、そのベネフィットを最大限にするような中長期的な管理方針であったり、が必要でないかと思っています。そういった観点で、研究アイディアを練って、解析を行っています。
②三尖弁治療について
三尖弁治療に関しては、ボン大学の単施設のデータベースで解析しています。
三尖弁は僧帽弁と比較しても、解剖的にも複雑な印象です。いざ治療を行おうと思って、改めて三尖弁のエコー画像を見てみると、いろいろな特徴があって面白いです。いかにこれまで三尖弁の形態について見ていなかったことを実感し、反省しています。
研究としては、術前のエコーデータを用いて、こうした三尖弁の解剖学的特徴とカテーテル治療の治療成績との関連について調べています。三尖弁に対するデバイスはまさに群雄割拠の状態ですが、現時点の症例数や今後予定されているRCTなどをみると、今後はやはりTriClipなどのEdge-to-Edge repairが主流になりそうです。そのため、Edge-to-Edge repairを行う上で支障となりうるような解剖学的特徴にフォーカスして解析を進めています。
研究に差し障りなくまとめようとした結果、かなり抽象的な結果になってしまいました。すみません。今の所、小さいネタのものも含めて何個か論文を投稿中で、あとは解析を進めたり、データを集めているものが何個かといったところです。もっと語学力があれば、ディスカッションも弾んで、研究もさらに進むのだろうと思いますが、そこが今後の課題です。
ドイツでの研究も基本的に、ネタを考えたり、練ったりして、データを集めたり、解析して、論文を書くという、日本でやっていたこととフロー自体はあまり変わりがありません。ただ研究に費やせる時間が多いことと、手技の件数も多いのでそれらを介して発想を得ることも多いことなどが日本との違いになるでしょうか。実際、自分で手を動かす解析や課題の語学の他にも、統計解析の勉強などにも時間を割くことができています。機会があれば、今まで使っていなかった解析方法やグラフなども試してみたいと思っています。
(写真:TriClipのハンズオンでのひとこま)
ボン大学リサーチフェロー 田中徹
ta.chi.tsu.tetsu@gmail.com