Die Zukunftsaussichten

ボン大学ハートセンター リサーチフェロー 田中徹

ta.chi.tsu.tetsu@gmail.com

SUNRISEのレポートもいよいよ大詰めを迎えています。

今回のテーマは”帰国後のビジョン”です。まだ留学を開始して、半年ほどで、こちらでの実績も帰国の予定もまだ全然たってないのですが、現時点で考えていることなどをまとめられればと思います。ちなみにタイトルは”将来の展望”のドイツ語訳ですが、Zukunft (将来,未来) + Aussichten (展望, 見通し)とつなげて一つの単語になってます。漢字がどんどん繋がってできる日本の単語と同じように、ドイツ語の単語もどんどん合体して長くなっていきます。そのため、単語を区切っていけば意味がわかるようになっていますが、見慣れない単語だとその切れ目を探すのが大変です。

 

1.帰国後の目標、自分のウリ

どなたからだったかは覚えていませんが、私のSUNRISE YIA での発表の際にある質問を頂きました。

「弁膜症治療に関しては、すでに多くの先生が海外留学から戻ってきていて、また現在も留学している先生も多いですが、そういう先生たちとどのように違いをつけることができますか?」

確かに非常に的を得ているご質問だったと思います。実際、多くの先生が海外や日本のトップ施設で弁膜症(SHD)治療を学ばれ、現在、日本の第一線で活躍されています。また、今後日本に帰国されるであろう海外留学中の先生も多くいらっしゃいます。そのため、私が日本に帰国する際にはおそらくSHD留学第3世代とか第4世代ぐらいになるのかな、と思っています。”鶏口牛後”という言葉がありますが、SHD留学に関してはもう”牛後”になりつつある、という見方が一般的なのかもしれません。そうした中でどのように自分の付加価値を作り出せるか、確かに大事な問題です。

しかし、こうした問いはそもそも弁膜症の留学に限った話ではないはずですが、弁膜症関連で留学する先生にしばしば向けられやすいと思います。おそらくそれは、留学の内容・成果が新しいデバイス治療など“目に見えてわかりやすい”ものが多い、ということに由来していると思います。留学の内容が客観的に見てはっきりしているので、帰国後も留学先で学んだことを活かして、引き続きご活躍される先生方が多いと思います。一方で、今回留学していて日本と海外での“目に見えにくい”違いもあることに気づきます。例えばTAVIやMitraClipなど日本でも導入されている治療に関しても、海外では治療に対する考え方、治療適応や細かな治療技術など随所に日本と異なる点が見受けられます。カテーテル治療が発展を遂げる中で多くの変化がもたらされたのだと思いますが、弁膜症カテーテル治療の歴史が長い分、それらの変化は日本よりも早くそしてダイナミックであると感じます。それゆえ、日本と海外でのディスカッションの内容に”違い”が生じえていると思います。そのような日本と海外との”違い”は現在留学しているからこそ感じえられるものだと思います。現在、ボン大学で新しい僧帽弁や三尖弁に対する治療などを勉強させていただいておりますので、帰国の際にはそうした“目に見える”新しい治療やデバイスの知識も持って帰れればと思いますが、それだけではなく、“目に見えにくい”新しい考え方なども日本に持って帰れればと思います。

とはいえ、まだまだ”自分のウリ”なるものははっきりしません。私はまだ循環器の専門医をとるかとらないかぐらいの年代であり、これまで日本で初期・後期研修として多くの臨床経験を積ませていただいたとはいえ、まだまだトレーニングが必要な身分です。論文などの研究活動においてもまだまだ未熟なので、日本に帰っても引続き修練を続けていかなければなりません。逆にいうと、帰国する頃でもまだいわゆる”若手〜中堅”ぐらいの分類になるのかなと思っていますし、まだ医者人生も長いのでどんどん新しいことにもチャレンジしていきたいです。

 

2.将来の方向性

将来的にも臨床医として臨床と臨床研究に携わるスタイルを続けていきたいと思っています。また、今回弁膜症治療の勉強・研究をしている中で、治療とはまた別にそもそもの弁膜症の診断や自然経過などへの興味も膨らみました。さらに心不全の臨床研究も面白そうです。自分のキャパシティー次第にはなるとは思いますが、あまり一つのことに拘らず、チャンスがあれば異なる分野にも挑戦して、さらに研鑽を積めればと思っています。また、弁膜症治療に関する研究を考えていると、どうしても最終的には「RCTじゃないとはっきり言えないな…」という結論になってしまいます。もちろん他にも様々な統計手法もあるかとは思いますが、やはりRCTでの検討が最も信頼性が高いと思います。臨床研究に携わるからには将来的に日本でRCTを行うことを目指したいです。

また、今回の留学前も留学中も多くの人に助けてもらっています。日本に戻ったら、同じように同僚の先生と助け合ったり、後輩の指導をしたり、そういったことにも積極的に参加したいと思っています。

 

3.帰国後に働くならどのような場所?どのような施設?

私はどこかの医局に入局しているわけではなく、良くも悪くも帰国時の働き口も完全に白紙の状態です。今は弁膜症に関する研究に携わっておりますし、今後もまずは同じように弁膜症の治療および研究に携わっていけるような場所で働ければと思っています。そして、日本でも留学中の活動からの連続性を失わないように、留学で学んだことを活かして発展させていければと思っています。

また、診療業務の中から新たにアイディアを得て、日常臨床に活かせる研究を行うためにも臨床業務を継続していくことが必要だろうと思いますので、研究と同時に弁膜症の診療・治療にも自分自身でしっかり携わっていきたいです。また、自分個人としては新しいものが好きなので、可能であれば、そのように新しい治療の導入や実施に前向きな施設で働くことができればと思います。

しかし、弁膜症の治療まで行っている施設となるとだいぶ選択肢が狭まってしまうのも事実です。日本の認定施設数などの現状をしっかり把握しているわけではありませんが、TAVI認定施設は限られると思いますし、MitraClipの認定施設はさらに少なく、今後三尖弁治療が導入されうる施設はさらに少なくなると思います。かなり行き当たりばったりではありますが、帰国を考える際に、自分のできること、興味のあること、やりたいこと、を吟味して職探しをしようと思っています。

 

4.帰国後にSUNRISEネットワークを使ってやりたいこと

海外で研究をしていると、単施設や多施設のデータベースに関しても日本のものと比較すると研究規模やスピード感の違いを実感します。しかし、一方でハイボリュームセンターであるからこその欠点も見えてきます。例えば、治療後のフォローアップ率が低かったり、心エコーなどの測定項目にばらつきがあったり、など症例数が多くなることに由来する問題も感じます。そう考えると、日本で臨床研究を行う強みも見えてきます。例えば、患者さんは頑張って病院にきちんと通院してくれるし、エコー技師さんもきちんとプロトコール通りきれいな画像を撮ってくれます。ただどうしても施設毎の患者数は少なくなってしまうので、研究としてのインパクトは弱くなってしまいます。日本の長所を活かしつつ、そういった短所を多施設の共同研究でカバーできれば、良い研究に繋がると思っています。帰国後にSUNRISEの先生方と協力して、多施設の研究を進められればと思っています。

また、研究とは異なりますが、海外の臨床現場に来て、日本と異なる働き方や診療科としての在り方などを目の当たりにしました。日本で働いていたときは漢ばかりの循環器内科でしたが、ドイツはInterventional Cardiologyで働く女医さんも多いです。今、日本で働き方改革が進められていますが、まだまだ海外と比べると遅れをとってしまっていると思います。このままでは循環器診療が立ち行かなくなってしまうこともあろうかと思います。もちろん海外の働き方は良いところばかりではなく、悪いところもありますが、日本の文化にあっているところを良いところどりして、日本の循環器診療に導入できれば良いと思います。こういった点でも、海外留学の経験をお持ちのSUNRISEの先生方と相談・協力できれば良いのではないかと思っています。

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田中 徹(Bonn, Germany)