“アメリカで最も危険で、誰も好き好んで住まない、ネズミとげっ歯類の街”
“The worst run and most dangerous anywhere in the United States”, “No human being would want to live there”, “Disgusting, rat and rodent infested mess”
– Donald J. Trump (@realDonaldTrump) July 27, 2019
https://twitter.com/realdonaldtrump/status/1155076476930338816
7月27日にアメリカのドナルドトランプ大統領がボルチモア市のことをこのように表現し、8月5日にボランティアがボルチモアに集まり、路地の清掃を行い、1,000袋のごみ袋約14トンほどが運搬され、ボルチモア界隈で話題となりました。
-Baltimore Sun/TNS via Getty Images. 2019. Aug. -WBAL\Phil Yacuboski. 2019. Aug
第2回レポートでも少し触れましたが、米英戦争で最も重要な港町の一つとされたボルチモアも、都市の老朽化と共にスラム街化し、“最も危険”かつ、“ネズミとげっ歯類の街”と表現されるほどになっています。 ツイートの後半部分、ネズミやげっ歯類うんぬんが妥当かどうかは別として、前半部分の最も危険でという内容は、ある部分正しく、ある部分正しくないように思います。
ボルチモアの犯罪と人種の歴史が語られる際に、よく目にする地図をご紹介します。
図1. ボルチモア居住区と人種の違い (1970年、2010年) (参考文献1より引用)
図1左は、1970年の黒人(赤いドット)と白人(青いドット)の住む区域を示しています。この頃は人種隔離の影響を受け、はっきりと黒人と白人の住む区域が分かれており、特に黒人の住む赤色中央部分にはほとんど青いドットは見られません。この赤色で示されている地域が、羽を広げたアゲハチョウのように見えることから、この地域は“The Baltimore Black Butterfly”と呼ばれています(2)。 図2右は、2010年の黒人、白人の住まいを示しています。40年が経過し、はっきりとした区域差は少しぼんやりとしていますが、いまだに差があるように見受けられます。さらに、1970年と比較し、密であったアゲハチョウの部分が比較的疎になり、白い部分が目立つようにもなってきています。
図2. ボルチモア市内の空き家と殺人事件 (2013年) (参考文献3より引用)
図2にお示しするのが、空き家とボルチモア市内の殺人事件の関係です。ワイン色で示されているのがボルチモア市内の空き家で、緑のドットが殺人事件の起きた場所です。 都心部の空洞化が進んでいる部分で殺人事件が多いことを示唆しています。また治安の問題だけでなく、世帯収入、小学校の成績、就職率、さらに平均寿命にさえ、この”Butterfly”は顔をだします。
こういった理由から、留学生の選択する居住区は今でも限られています。
図3. 居住区と人種の分布 (参考文献2より引用)
図3にアジア人を含めた様々な人種の最近の居住区域をお示しします。黒色のドットがアジア人です。白人を示すピンク色のドットはButterflyの間を縫うようにL字型を描いており、“The White L”と呼ばれています(2)。アジア人の住む黒色のドットも同様にほぼThe White L内に見られます。留学生が多く住むこのような地区は、空き家の数が少なく、ボルチモア市街地と比べるとかなり安全と言われています。年間350件、一日およそ一件の殺人事件が起こるとされているボルチモア市内ですが、安全区域がはっきりしており、安全区域は自然が豊かです。さらに、郊外のアパートメントには、プールやジムが付き、十分な広さがあります(70-130 m2くらい)。月$1400-2000くらいで、他の大都市と比較すると家の広さは広く、家賃はかなり安めだと思います。
図4 ボルチモアの住まい(職場から20分くらい)
ボルチモアでの食生活をご紹介します。
先週日本に旅行した職場の中国人のルームメイトが、スーツを着たまま、酔いつぶれるサラリーマンが最も印象的だったと言っていました。また、普段シャイでノリが悪く、英語を喋れないけど、Sakeを飲むとクレイジーになる日本人、という話も聞いたことがあります。私は、逆に仕事帰りに飲みに行こうという習慣がないことに驚きました。こちらでは(少なくとも私の周りでは)、飲み会という文化があまり盛んでなく、ほとんどの夕食を家で食べます。 週末に車で30分圏内にある韓国系スーパー、コストコなどに行き、食材を購入しています。
図5 . 近くの韓国系スーパー (日本の食材もありますが、高めです)
ボルチモア市はチェサピーク湾という大きな湾に面し、魚介類が豊富にとれるそうです。特にブルークラブのソフトシェルや、クラブスープと呼ばれる蟹肉のスープ、クラブケーキと呼ばれる蟹肉の肉団子をいろいろなところで食べることができます。生牡蠣などの牡蠣料理もおいしく食べられます。
鳥、豚、牛はスーパーによりけりですが、かなり安く買うことも可能です。ポンド単位で値段が書いてあり、安い豚、鳥は2-5ドル/1ポンドくらいからあり、10ドルだせば、家族で2食分くらいになります。高い牛は10-20ドル/1ポンドくらいします。Wagyuはもっと高いです。
野菜はアジア系スーパーに行けば、日本とそう変わりない値段でおいしいものが手に入ります。バナナやりんごなどの果物は日本より安く、たくさん売ってあり、味もおいしい気がします。また、週末に朝市場があり、産地直送の野菜などが手に入りますが、とても甘くみずみずしい味がします。ネギは5束1$、大きなメロンが2$で売っています。
図6 近くのマーケット
値段が高く、おいしいものがあまりないため、外食することは少ないです。
ステーキやハンバーガーといったいわゆるアメリカン料理は、残念ながら今のところおいしいレストランには出会っていません。
日本料理よりも韓国料理の方が、アクセスが容易です。コリアンタウンに行くと韓国焼肉や韓国のパン屋さんなどが点在し、日本食に近いものを食べることができます。市内には数店舗、寿司屋さんがありますが、鉄華巻き・河童巻きなど日本風日本料理より、カリフォルニアロールなどアメリカ風日本料理の方がおいしく感じます。
リトルイタリーというイタリア通りがあり、こちらにあるイタリアンのお店は日本のイタリアンと大きく変わらず、とてもおいしいです。
メキシカン料理はこちらでよく見ます。タコスやナチョスなど、個人的にはアメリカン料理よりは、はずれが無いように思います。
年に数回、ボルチモアレストランウィークという催しが開催されます。 普段敷居が高い高級レストランが、格安で料理を提供し、気軽に高級レストランを訪れることができます。この週には普段行けないレストランに子供連れで行く家族が増えるようです。
前述のとおり同じ居住区域に日本人が集まっているため、定期的にお茶会が開かれています。0歳から12歳ころまで様々な年齢の子供がおり、その子供の年齢に合わせてコミュニティが形成されているようです。また、子供の年齢によって学区を考え、住む区域を変える人もいるようです。
平日や土曜日の朝に公立図書館で乳児や幼児向けに、絵本の読み聞かせタイム(ストーリータイム)が行われています。
英語を母国語としない人々も多いため、ESL (English as a second language)も盛んです。大学が提供する有料の英会話、教会で市民団体が提供する無料の英会話など様々です。
少し長くなってしまったので、ここからは少し簡潔に説明します。ボルチモアの観光スポットは、再開発区域の、インナーハーバー、フェルズポイント、フェデラルヒルが挙げられます。とてもきれいで、安全です。もしボルチモアに来られるなら、是非行かれてください。
図7. フェデラルヒルから見下ろすインナーハーバー
また、その他有名な観光名所として、国立水族館、ピーボディ図書館、ボルチモア美術館があります。ボルチモア美術館には、マティスと呼ばれる画家や、ピカソ、ゴーギャン、ルノワール、レンブラントなどの様々な絵画、彫刻が展示されています。
図8. Peabody図書館
少しボルチモアを離れると1.5時間圏内にワシントンDC、フィラデルフィア、アナポリスがあります。
図9. ワシントンDC リンカーン像およびマーチンルーサーキング牧師像
州都のアナポリスには、アメリカ海軍兵学校があり必見です。日本の江田島にある海上自衛隊幹部候補生学校/第一術科学校をご存じの方は多くはないと思いますが、海上自衛隊の前進の大日本帝国海軍が所有した江田島海軍兵学校は、1900年代初頭に世界三大海軍兵学校に名を連ねるほど有名な学校だったそうです。その当時並んで有名だった海軍兵学校が、イギリスダートマスにある英国帝国海軍兵学校と、ここアナポリスにある米国海軍兵学校だそうです。アナポリス海軍兵学校の歴史ある建物と、卒業式の儀式は必見です。
図10. Annapolis Naval Academyの卒業式 (一般公開)
私が渡米した4月から6月頃までは非常に過ごしやすい20-25度程度の涼しい気温が続いていました。雨も降りますが、しとしとと降る雨ではなく、ゲリラ的に激しく雷を伴って振って、すぐに止むことが多いです。7月には、100℉ (37.8℃)を超える日があり、日差しが強くとても蒸し暑かったですが、一年を通しても稀なようです。
まだ、米国在住から日が浅く、米国人の価値観に触れる機会は多くありません。 そこで、代わりに私がこちらにきて、驚いたことを箇条書きでご紹介させていただきたいと思います。個人的な感想と思っていただけるとありがたいです。
・上司、講師が部下、学生の発言を尊重しながら、自分の意見を提案している。アサーティブな会話が多い。的外れな答えをしても、“あり得るかもね”と答え、そこから深く掘り下げてくれます。
・授業中、フリートーク中の議論が活発。その分、積極的に発言しないとあまり相手にされない。発言するとどんな小さなことでも的外れなことでも誰かが拾ってくれる。
・授業は非常に丁寧で、かみ砕いて説明されるため、英語にも関らずとてもわかりやすい。
・警備員がとてもフレンドリー。月曜日の挨拶、ハッピーマンデー!で週が始まり、ハッピーフライディ!で週が終わる。
・夏休みが長い。5月27日から9月2日まで。その間の夏休みはそれぞれの計画で職場にいたり、旅行していたり。
・金曜日午後は閑散としている。16時から始まるハッピータイム(通常の時間より安くお酒が飲める時間帯のこと)に合わせて退室する人も。
・でも、深酒、泥酔している人を見ません(そういう場所に行けばたくさんいるかもしれませんが)。
・道を歩いているとよく話しかけられる。赤ちゃんはとにかく話しかけられる。
・土地が広い。都市部から20-30分郊外に離れると、北海道のような草原、牧草地が広がっています。大きな一軒家には公園のような庭とプールがついていて目の保養になります。
図10. 世界最古のショッピングモール”Roland Park Pharmacy”
・コンビニ、スーパーは徒歩圏内になく、すべての移動が車。住宅地でも横断歩道を渡る歩行者をあまり見ません。
・高速道路が無料で、平日も土日も車が多い。路肩で自分でタイヤ修理している人を見かけ、バーストしたタイヤが頻繁に道路脇に転がっています。
・車の運転が荒い、最左車線でたらたら運転してると、アオリは必至です。アメリカの60 mile/h (96 km/h) の感覚は、日本の60 km/hの感覚と同じだと教わりました。 雨の日は電光掲示板に「ママが見てるからね」というメッセージが掲示されます。
図11. ”Drive Like Your Mom Is Watching”
・道路、建物が古い。
・家族のイベントが大事にされる。
5月27日の祝日Memorial dayに始まった長めの夏休み期間も、9月2日の祝日Labor dayで終わり、一斉に学校の授業が始まります。今週に入り、突然気温が下がり、長袖を着る人が増えてきました。この数週間は非常に涼しく、朝・夕の風はとても気持ちが良いです。
朝、窓を開けると林から鳥の鳴き声が聞こえてきます。夜、ふと目を覚ますと、天井からトントントンと、ネズミの足音が聞こえてきます(嘘)。
1. Randy Yeip. Baltimore’s Demographic Divide. The city, like many urban centers, is one of stark contrasts when it comes to race and poverty. May. 1, 2015. https://graphics.wsj.com/baltimore-demographics/
2. Lionel Foster. Features. “The Black Butterfly” Racial Segregation and Investment Patterns in Baltimore. https://apps.urban.org/features/baltimore-investment-flows/?utm_source=urban_social&utm_medium=twitter&utm_campaign=baltimore_investment&utm_term=metro
3. Andrew Zaleski. Baltimore city’s 2013 homicides often near vacant property clusters. Jul. 16, 2013. https://technical.ly/baltimore/2013/07/16/baltimore-homicides-vacant-property/