心臓MRIによる冠動脈評価

心臓MRIによる心機能・心筋性状評価の有用性が周知されてきているが、MRIによる冠動脈評価(MR coronary angiography; MRCA)は比較的に発展途上の分野である。今回は心臓MRIによる冠動脈評価についてまとめる。
 
1. MRCAで評価できるもの・できないもの(冠動脈CTとの比較)
2. MRCAの診断能
3. MRCAの撮像方法
4. 1.5T vs. 3T
5. MRCAの将来性
 
1.MRCAで評価できるもの・できないもの(冠動脈CTとの比較)
① MRCAが冠動脈CTに勝る点
1) 非造影での撮像 (MRCAは非造影でも造影でも撮像可能、冠動脈CTは造影が必須)
2) 放射線被曝を伴わない (MRCAは放射線を不使用、冠動脈CTは放射線を使用)
3) 撮像時に心拍数の低下が不要 (MRCAはβブロッカーの投与は不要、冠動脈CTは心拍数低下目的にβブロッカーを使用。硝酸薬はMRCAでも使用したほうが病変の視認性が良い。[1])
 
② 冠動脈CTがMRCAに勝る点
1) 空間解像度の違いによる詳細構造の評価(MRCA≒1 ㎜、冠動脈CT≒0.5 ㎜、カテーテル冠動脈造影検査(CAG)≒0.3 ㎜。冠動脈CTのほうが一般的にMRCAより空間解像度が高く、詳細評価が可能)
2) 石灰化やステントの評価(MRCAは石灰化やステントは低信号を示すため評価不可、冠動脈CTはステント内狭窄や石灰化病変が評価可能。)
3) 確立された定量評価方法(MRCAではまだ確立された定量評価方法が少ない、冠動脈CTは狭窄率・プラーク評価など、数多くの定量評価方法が確立されている)
 
以下図1に、同一症例のMRI, CT, CAG画像(文献[2]より引用)を示す。左側2列はMRI, CTいずれもVolume Renderingという3D再構成された画像である。その右側2列の白黒の画像は、MRI・CTのmultiplanar reconstruction (MPR) 画像、および最右列はCAG画像である。右3列の赤色矢印・黄色矢印はそれぞれ前下行枝・回旋枝の同じ病変を示し、特に赤色矢印は石灰化病変のモダリティの違いによる見え方の違いが示される。

図1 同一症例のMRI, CT, CAG画像  文献[2] より引用

図1. 同一症例のMRI, CT, CAG画像 (文献[2]より引用)

2. 冠動脈狭窄に対するMRCAの診断能
診断能の論文を読むときには、1) 何と何のモダリティを比較したのか、2) 目視評価なのか、定量評価なのか、3) per-patient/ per-vessel / per-segmentいずれの診断能なのか、4) いつ頃のどのような技術で撮像された画像なのか、等の注意点がある。
1.5T MRCAの診断能を日本のマルチセンタースタディが報告している。CAGで50%以上の狭窄のMRCAの検出能を127名の患者(有意狭窄有病率44%)を対象に評価し、Per-patient analysisでは感度・特異度・Positive predictive value (PPV) ・NPVが88%, 72%, 71%, 88%であった。NPVの高さから、MRCAは冠動脈疾患の除外診断に有用であると報告された。[3]
3T MRCAおよび64列CTの診断能をCAGとの比較から報告した論文もある。連続120名の冠動脈疾患疑いまたは診断のついた患者(有意狭窄有病率56%)に3.0T MRCAと64列冠動脈CTを施行し、CAGで50%以上の狭窄の診断能を評価した。Patient-based analysisにおいて、正診率はMRCA83%、冠動脈CT87%、感度・特異度・PPV・NPVはMRCAで87%, 77%, 83%, 82% 、冠動脈CTで90%, 83%, 88%, 87% であり、両モダリティの結果に有意差がなかったと報告した。[2]
 
3. MRCAの撮像方法
冠動脈は心臓の収縮/拡張や、呼吸による横隔膜の上下運動に伴って移動する。ここからMRCAの静止画像を得るためは、心電図同期・呼吸同期等の工夫が必要となる。MRCAの撮像は自由呼吸下に行うが、通常10-30分程度の時間を要することから、数多くの撮像時間短縮のための方法が試みられている。
冠動脈CTが最少だと1心拍で撮像できるのに対しMRCAだと時間を要する理由は、冠動脈CTは放射線が透過することで画像を得るが、MRCAは入力したパルスシーケンスで惹起される組織内の(主に)水素元素の磁化をデータにし、複数心拍のデータを重ね合わせて画像を作るためである。
 
①心電図同期
MRCAの撮像中には心電図モニターをし、適切な心周期(拡張末期を使うことが多い)のデータを収集する。また心電図モニターは適切なタイミングでパルスシーケンスを入れるためにも必要である。
②呼吸同期
横隔膜の上下運動をモニターし、呼気相に心臓の位置がほぼ同一となることを利用する。横隔膜位置のモニターは、心エコーにおけるMモードのように、右側の横隔膜ドームの頂点を横断する断面を連続的に撮像することで可能となる。撮像時間中の全心拍のうち何%がデータ収集に寄与したかを示す数字をscan efficiencyというが、呼気相でのみ画像データを収集するため、通常はscan efficiency は40%前後である。呼吸パターンの個人差によりScan efficiencyが下がると、撮像時間は長くなる。[4]
③撮像時間短縮の方法
収集するデータの量が少なくなれば撮像時間は短縮する。例えば空間解像度を低くする(Voxel sizeを大きくする)と、細かい構造の識別ができなくなるが、データ量が減少するため撮像時間は短縮する。また臨床で一般的に使用されるParallel imaging法は、収集するデータを間引きするように減らし、後からデータを画像に再構成することで撮像時間短縮を図っている。[5]
 
4. 1.5T vs. 3T
現時点では、1.5T MRCAと3T MRCAのどちらが良いとはまだ言い切れない。1.5Tは過去の経験・研究から安定した撮像が可能という強みがあるが、3T MRCAで高い空間解像度が追及できれば、3T MRCAのメリットはより大きくなると思われる。MRCAの撮像が一足飛びに3Tに向かわなかった理由としては、1.5Tのシークエンスを3.0Tにそのまま応用できなかったことも一因である。1.5T MRCAと3T MRCAは、そもそも撮像シークエンスが異なる(1.5Tと3.0Tの違いはReport1にも記載している)。1.5T MRCAで用いられたbalanced steady state free precession imaging (bSSFP)というシークエンスだと3.0Tではアーチファクトが多くなる。初期段階ではbSSFPも試みられたものの現在では3T MRCAではfast low angle shots (FLASH) というシークエンスが用いられている。MRCA撮像方法の発展の経緯は論文を年代順に追うとわかるが、端的には1.5T非造影MRCA→3T造影MRCA→3T非造影MRCAであり、造影MRCAをはさんで研究がすすめられたのも興味深い。
 
5. MRCAの将来性
MRCAの将来性を高めるための研究には多方面からのアプローチがあるが、ここでは撮像時間短縮のための研究を紹介する。
前述のscan efficiencyを高めることで撮像時間短縮を図るため、心電図・呼吸同期を使用せずに撮像時間中の全心拍のデータを収集して(scan efficiencyを100%にして)撮像し、撮像後に画像再構成を行う方法が研究されている。複数の施設が論文を出しており、Three-Dimensional Retrospective Image-Based Motion Correction (TRIM) [4]、ECG and Navigator-Free Four-Dimensional Whole-Heart Coronary MRA [6] などと命名されている。撮像後に膨大な量のデータをレトロスペクティブに呼吸相・心周期別にカテゴリー分けし(Motion correction)(下図2)、得たいMRCAの画像を再構成する。Scan efficiencyが100%となることで撮像時間そのものは短縮するが、撮像後の再構成に時間がかかるのが現時点での課題である。心電図同期や呼吸同期といった事前準備が不要となること、今までは設定した心周期のみのMRCAの静止画像のみ得ていたものが、この撮像方法だと収縮期・拡張期を問わず得たい心周期のMRCA画像を得たり、連続動画も作れる等、今までの撮像方法にはなかったメリットがある。
図2 Motion correctionによる呼吸相・心周期別カテゴリー分けを模式的に表したもの 文献[6] より引用

図2. Motion correctionによる呼吸相・心周期別カテゴリー分けを模式的に表したもの (文献[6]より引用)

これでレポートは最終回となります。ここまで約1年半、長期間にわたりサポートしてくださったSUNRISE研究会の先生方に、深く御礼申し上げます。循環器画像診断に興味をもち、レポートを読んでくださった皆様にも感謝申し上げます。ありがとうございました。
 
参考文献
[1]      T. Heer, S. Reiter, M. Trißler, B. Höfling, F. von Knobelsdorff-Brenkenhoff, and G. Pilz, “Effect of Nitroglycerin on the Performance of MR Coronary Angiography,” J. Magn. Reson. Imaging, vol. 45, no. 5, pp. 1419–1428, 2017.
[2]      A. Hamdan, P. Asbach, E. Wellnhofer, C. Klein, R. Gebker, S. Kelle, H. Kilian, A. Huppertz, and E. Fleck, “A prospective study for comparison of MR and CT imaging for detection of coronary artery stenosis,” JACC Cardiovasc. Imaging, vol. 4, no. 1, pp. 50–61, 2011.
[3]      S. Kato, K. Kitagawa, N. Ishida, M. Ishida, M. Nagata, Y. Ichikawa, K. Katahira, Y. Matsumoto, K. Seo, R. Ochiai, Y. Kobayashi, and H. Sakuma, “Assessment of coronary artery disease using magnetic resonance coronary angiography: a national multicenter trial.,” J. Am. Coll. Cardiol., vol. 56, no. 12, pp. 983–91, Sep. 2010.
[4]      J. Pang, H. Bhat, B. Sharif, Z. Fan, L. E. J. Thomson, T. Labounty, J. D. Friedman, J. Min, D. S. Berman, and D. Li, “Whole-heart coronary MRA with 100% respiratory gating efficiency: Self-navigated three-dimensional retrospective image-based motion correction (TRIM),” Magn. Reson. Med., vol. 71, no. 1, pp. 67–74, 2014.
[5]      A. Deshmane, V. Gulani, M. A. Griswold, and N. Seiberlich, “Parallel MR imaging,” J. Magn. Reson. Imaging, vol. 36, no. 1, pp. 55–72, 2012.
[6]      J. Pang, B. Sharif, Z. Fan, X. Bi, R. Arsanjani, D. S. Berman, and D. Li, “ECG and navigator-free four-dimensional whole-heart coronary MRA for simultaneous visualization of cardiac anatomy and function,” Magn. Reson. Med., vol. 72, no. 5, pp. 1208–1217, 2014.

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加藤 陽子(Baltimore, USA)