FFRによる機能的完全血行再建後の残存狭窄病変が、予後に与える影響 ☆★Author古林先生よりコメントを頂きました★☆

The Prognostic Value of Residual Coronary Stenoses After Functionally Complete Revascularization.
Kobayashi Y. et al. J Am Coll Cardiol. 2016;67:1701-11.
FFRガイド下PCIの有用性については今更説明するまでもないことですが、FAME TrialのFFR-guided PCIコホートを用いて、機能的な(=FFR >0.8)完全血行再建が果たされれば、造影所見上の残存狭窄は予後に影響しないことを証明した研究です。昨年のJACCに掲載されたこの論文のfirst authorは、スタンフォード大学にご留学中のの古林 雄平先生です。
今回ありがたいことに、Authorの古林先生から、直接コメントを頂戴することができました!
【古林先生からのコメント】
藤野先生、SUNRISE lab.の皆様、いつも興味深くレポートを拝見し刺激を受けております。この度はこちらの論文を取り上げて頂きどうもありがとうございます。まず簡単に私から論文の背景を説明させて頂きたいと思います。
安定狭心症、ACSを問わずPCI施行の際にComplete revascularizationを達成する事で得られる予後改善効果については多くのStudyで議論されていますが、実はFAME試験は二つのComplete revascularizationを比較した試験とも言い換えられると個人的には考えています。ご存知のようにFAMEはAngio-guide PCIとFFR-guide PCIを比較した試験ですが(N Engl J Med. 2009; 360: 213-24. 、詳細は塩野先生のレポートをご覧下さい)、Angio-guide群では造影上の有意狭窄全てを治療対象とするのに対し(”Angiographically” complete revascularization)、FFR-guide群では造影とFFR両方が有意だった狭窄のみ治療対象としております(“Functionally” complete revascularization)。結果としてはFFR-guide PCIの方がMACE発生率が低かった訳で、”Functionally” complete revascularizationを我々は目指すべきと言えるでしょう。過ぎたるは及ばざるが如し・・・
しかし、”Functionally” complete revascularizationを達成した後に残存する造影上の有意狭窄(FFRは有意ではない)があればそれが予後に本当に関係しないのかというのは気になる所ですよね。実際今までのFFRを使用していない複数のTrialからは、残存狭窄が多いほど予後が悪いというデータがいくつも出ています。そこで今回のコンセプトとしては、”Functionally” complete revascularizationを達成した後に残存する造影上の有意狭窄を定量化し、それが予後に関与しないのかを見てみようという事です。それでは藤野先生にまとめて頂いた内容をどうぞ!
〔背景/方法〕
安定冠動脈疾患において、造影所見上の完全血行再建は非完全血行再建と比較して長期予後を改善することが知られている。いっぽうで、造影所見と比較しFFRがよりよく将来の心血管イベントと関連することが報告されており、FFRによる「機能的な」完全血行再建が行われたのちの造影所見上の残存狭窄(residual SYNTAX score/SYNTAX revascularization index)は予後に関連しないという仮説のもと、FAMEトライアルのFFR-guided PCIコホートを用いてこれを検証した。
研究デザイン:FAMEトライアルのFFR-guided PCIアームにおいては、FFR ≤0.80の病変のみに対しPCIが施行され、FFR ≥0.80の病変にはPCIは施行されなかった。LMCADを有する患者、CABG既往のある患者、心原性ショック、著明な屈曲/石灰化病変を有する患者は除外された。RSS (residual SYNTAX score)=PCI終了後のSYNTAX score(残存病変が多いほど高スコア)、SRI (SYNTAX revascularization index)=100×(1-RSS/baseline SS) (%)とし、RSS、SRIの違いによって予後に差が生じるかどうかを検証した。
エンドポイント:PCIから1年後の、主要心血管イベント(MACE)=全死亡、心筋梗塞、再血行再建の複合エンドポイント
〔結果〕
最終対象患者は427名(FAME TrialのFFR-guided PCIコホートの83.9%)。RSS、SRIは、「機能的」完全血行再建が果たされた多枝病変患者の1年/2年フォローアップにおけるMACEを予測しなかった(1年フォローにおいて、log-rank p=0.55 for the RSS subgroups and log-rank p=0.54 for the SRI subgroups)。いっぽうで、術前のSYNTAX score(SS)とFFR >0.80の病変のスコアを減じたSYNTAX score(FSS)のサブグループにおいては、MACE患者と非MACE患者でスコアに有意差が認められた(SS: 18.0 (MACE+) vs 12.0 (MACE-); p=0.001, FSS: 16.0 vs 9.0; p<0.001)。RSSおよびSRIの同様の比較では、両者に有意差は認めなかった(RSS: 6.0 vs 5.0; p=0.51, SRI: 60.0 vs 58.8; p=0.24)。
〔結論〕
FFRによって機能的完全血行再建が果たされれば、 (FFR>0.8の)機能的に有意でない造影所見上の残存病変は主要心血管イベントのリスクを上昇させない。
 

a_fujino
a_fujino
藤野 明子(New York, USA)