to be a physician-scientist

まだ日々目の前にあるものに精一杯で、そもそもこれまでも長期的なビジョンをあまり持たずにその時々の好奇心によって選択を繰り返してきた自分にとって、「帰国後のビジョン」というのはなかなか難しいテーマです。それでも留学前に比べれば、自分がこの先どうしていきたいのか、というのは少しずつ見えてきているように思います。今の時点で考えていることを書いてみようと思います。
 


<どんな方向性 ?>
まず、「physician-scientistでいたい」という気持ちは強くあり、大雑把ではありますが根幹となる目標です。
臨床も基礎も共に加速度的に高度専門化していく今日、双方の隔たりは一層大きくなっているように感じています。一人の人間が両方に従事するのは非常に大変、ともすれば中途半端で効率的ではない、という見方も当然あると思います。しかしながら逆に言えば、両方の言語を理解する人材が唯一、その隔たりを超えて両者を繋ぐ役割を遂行できるのではないか、と考えています。
今のラボでは、大学時代から基礎研究のトレーニングをしっかり受けそのまま研究を続けている多くのnon MDの人たちと関わっています。医師としての臨床経験に何年か費やしている自分には乗り越えられない、基礎研究の知識や経験の差が彼らとの間にはあります。ただ一方で、病態の解明や治療法の創出を目指す、という文脈の研究においては、こちらにも利があることをよく感じます。現存する治療法や一般的な疾患経過についての前提知識はもちろん、「どこに臨床上のアンメットニーズがあるのか」、「基礎研究の結果を臨床に発展するにあたってどのようなことが問題となりうるか」、など臨床医ならではの視点は、実験データの解釈や研究の方向づけに重要な影響をもたらすことを実感しています。その重要性を裏付けるがごとく、私の研究所では、私のラボを含め多くのMDがPI (Principal Investigator)を務めています。その中には実際に臨床との二足の草鞋を履く循環器科医もおり、こういう感じになりたいなあと憧れるようなロールモデルになっています。
 
<研究における目標は?>
研究に関しては、当ラボのメインテーマである、Gタンパク質共役受容体(GPCR)の研究を、帰国後も発展的に続けていきたいと思っています。今は現在進行中のプロジェクトに集中している状況ですが、枝葉のように新たなクエスチョンが派生してくるのを注意深く拾っていき、帰国後の課題にしたいと思います。単に留学先の真似事をするのではあまり能がありませんが、今のラボでも自分が循環器科医であるという点で自己を差別化できていると実感しますので、ここを活かしていきたいと思います。また、国際協力がますます重要に、戦略的にも有効になっていく中で、何らかの形で今のラボとの友好関係を維持していくことも目標の一つです。そして、GPCRは創薬と強く関係しますが、企業とも連携を図りながら実現可能な診断薬や治療薬の標的を1つでも見つけることを、長期的な目標にしたいと思います。
 
<どこで働く?>
私の場合は、帰国後は所属医局である名古屋大学循環器内科に勤務する可能性を第一に想定しています。もちろん、数年先の話であり、今の時点で確約されているわけでもないので、場合によっては他の選択肢も検討しなければいけないかもしれません。ですが、いずれにしても上記のような構想を実現するためのポストを希望したいと思っています。また、ここドイツで色々な国の人たちと触れ合っている経験を活かして、国際化という観点での後進の指導や、場合によっては留学生との交流にも関わっていきたいと思います。
 
<SUNRISEでの出会いにも感謝>
あとは、このSUNRISEで同時期にレポートを担当している先生方にはとても親近感が湧いており、是非どこかでお会いしたいと思っています。SUNRISE研究会の大きな特徴として、例えば海外留学、キャリアプラン、論文作成、といった公約数的なタグの下に様々なバックグラウンドを持つ循環器内科医が集まっていて、参加することで自然と見聞を広めたり新たな繋がりができたりする、という点が挙げられると思います。数ある他の学会や研究会で同じ専門の先生方にお会いする機会は十分にある一方で、ハブとしての機能を持つSUNRISE研究会のような場はとても貴重だと感じています。これからもSUNRISEの活動を応援していますし、帰国後にはまた何か関わりが持てれば良いなあと思っています。
 


ぼんやりと今思い描く未来について書いてみましたが、端的にまとめれば、「常にワクワクしていたい」という一言に尽きます。これは人生における目標ですね。

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川瀬 治哉(Bad Nauheim, Germany)