三尖弁は本当に“三尖”弁?

ボン大学 ハートセンター リサーチフェロー

田中徹

今回は三尖弁の解剖に関する新しい知見に関してレポートです。

右房と右室を隔てる弁は弁尖が3つあるので”三尖弁”という名称になっているかと思います。ただ、大動脈弁に二尖弁などの弁尖異常があるのに、三尖弁の弁尖は決まって3つなのでしょうか。実はそうではないことが最近わかってきました。

 

最初の報告は、解剖検体を用いた研究で2019年のJACC interventionに報告されています。40名の心臓の解剖検体を用いて、三尖弁の解剖を評価しています。

三尖弁複合体を評価すると、前尖・後尖・中隔尖の3つの弁尖で構成される”三尖弁”(3-leaflet)は60%程度で、残りの40%程度では弁尖が4つ認められた(4-leaflet)という結果でした。この論文内での、”弁尖”の定義は「2つのCommissureに挟まれている組織」としています。

(Am Coll Cardiol Intv 2019;12:169–78)

また、一つの弁尖も2つに分かれていたりなど、一概に“三尖弁”といってもバリエーションに富んでいることがわかりました。残念ながら、この報告では解剖の評価のみであり、エコーなどの臨床データが欠けていました。そのため、実際にエコーでどのように見えるのか、また、4-leaflet であることがどのように弁機能へ影響を来すのかということまでは検討されていませんでした。三尖弁に対するカテーテル治療が広がっていくにつれて、こうした三尖弁の解剖への重要性・注目度が増してきていることを感じさせられる論文だと思います。

 

それに次いで、2021年にコロンビア大学のRT. Hahn先生がミュンヘンやハンブルグなどのドイツの大学病院と共同で、三尖弁の弁尖異常に関するデータをJACC imagingに発表されました(DOI: 10.1016/j.jcmg.2009.09.028)。

経食道心エコーで三尖弁の評価を行った579名の患者を後ろ向きに解析した論文です。2D, 3Dエコーで三尖弁の評価を行い、その弁尖の数を評価しています。この論文でも“2つのCommissureに挟まれている”ものを弁尖と定義しています。それを元に、弁尖の数を測定すると、2尖のものから5尖のものまで存在するという結果でした。割合的には、もちろん3尖が最も多く(54%)、次いで4尖(39%)という分布です。2尖と5尖はそれぞれ5%, 2%と頻度としては稀になります。

また、Commissureと乳頭筋の位置関係から弁尖のオリエンテーションをつけ、どの部位にプラスアルファの弁尖が多く位置しているかも評価しています。”4尖” の三尖弁の中では、後尖部分に第4の弁尖が存在している割合が多いという結果でした。

この論文はエコーでの弁尖の方法論の提示をメインとしており、その弁尖異常の頻度と、施設間でそれらの弁尖異常の頻度が変わらないことなどを示しています。三尖弁のエコーの大家であるRT. Hahn先生がFirst author であることもあり、この論文で“三尖弁の弁尖異常”が市民権を得る第一歩になったかと思います。

(RT. Hahn, et al. JACC CV imaging 2021)

 

三尖弁のカテーテル治療を行う際は、弁尖を含む三尖弁について詳細な解剖学的評価が必要となります。そのため、術前および術中も経食道心エコーのTrans-gastric view を積極的に用いて、弁尖の大きさや長さ、逆流の部位、弁尖のギャップなど、様々な評価を行います。かつ、かなり念入りに評価しますので、以前と比較すると、三尖弁に関してエコーから得られる情報量も増えてきていると思います。今後も治療と絡めて、こうした三尖弁の解剖学的評価の報告が増えてくると思います。

 

一方で、まだ課題もあって、三尖弁を3Dエコーで上手く観察できない症例も多いですし、2Dエコーで三尖弁の複雑な解剖を評価するにも限界があります。弁尖の評価やその他の三尖弁の解剖学的評価に関しては、評価法を一般化するためにも、もう少し検討が必要かと思います。

また、病態生理的には、こうした三尖弁の弁尖異常がどのように発生してきたかはまだわかっていません。先天的に弁尖異常があったのか、三尖弁のリモデリングの過程で弁尖が分かれたり癒合したりなどの変化してきたのか、ペースメーカリードなどの外的な因子も関係しているのか、など可能性は様々です。

弁尖異常が弁機能にどのように影響しているか、また、逆流が発生・増悪しやすいのか、なども興味あるところです。

 

となると次は、4-leaflet の三尖弁が臨床においてどの程度インパクトを持つか、ということがフォーカスされていくかと思います。

2020年にCanadian Journal of Cardiology に4-leaflet の三尖弁に対してMitraClip deviceを用いてカテーテル治療を行ったというケースレポートがイタリアの施設から報告されています。この症例の治療結果は良好で、弁尖の数の違いはカテーテル治療においてあまり悪さはしないのではないかというものでした (Can J Cardiol. 2020 Jun;36(6):966.e7-966.e9.)。しかし、まとまった症例数での報告はまだなされていないという状況です。ということで、こうした4-leafletの三尖弁に対するクリップ治療の治療成績についてもまとめていけたらと思っています。

 

大動脈弁や僧帽弁もそうでしたが、新しいコンセプトの治療が開発、発展すると、同じ対象・病態でも異なるサブスペシャリティの医師がこれまでと異なる視点でみるため、新しい知見が生まれるきっかけになるかと思います。数百年以上前から認知されていて、数十年も外科医の先生が目視で手術してきた三尖弁について、今更解剖で新しい知見が生まれるのはなかなか感慨深いところです。

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田中 徹(Bonn, Germany)