1. 日常業務スケジュール
カテ室の最初の症例はだいたい、8-8:30AMの間に始まる。なぜ、「だいたい」とか「8-8:30」なのか、と思ったみなさま、鋭い!なぜなら、ここはシチリアだから。みんな、のんびりしていて、カテ室にも「南」の時間が流れている。教授は7時過ぎには病院に来て仕事をして8時から回診をして、その後カテ室に来るわけだが、まだ準備できていないと、大声をあげて怒りまくる。それでも変わらないのが、シチリアである(笑)。ドクターは8時くらいから集まりだし、まずはみんなでEspresso (写真1)。他愛もない話で盛り上がり、濃厚な一杯で、一気に覚醒。カテ室は14時を境に午前、午後に別れ、ドクター、ナース、技師、すべてスタッフが入れ替わる。ドクターの構成は、午前中はスタッフが3名、フェローが3名(カテ室3部屋稼働のため)、午後はスタッフとフェロー1人ずつという組み合わせになっている。写真2はカテ室の予定症例の例である。フェローは予定されている患者さんの冠動脈造影を行い、スタッフと相談しながら治療方針を決めていく。自分の場合は、スタッフ/フェローのような立場で、ありがたいことに自分の担当した症例の治療方針は任せてもらえている。さらには、教授や他のスタッフから治療方針を相談されることも少なくなく、多くの有意義なディスカッションができたと思っている。また、SHDIが予定されている日は、全症例入れるようにするためSHDIに専念させてもらうようにしてもらっている。TAVIは主に月〜木でランダムに入り、MitraClipなどの全麻を要する手技は火・木と決まっている。金曜日午後は彼らにとって週末の一部のようなものなので、その枠に重要な手技が入ることは通常ない。居場所は基本カテ室であるが、術後回診やデータベース入力のためにICUや病棟に行ったりすることもある。週末・夜間の当番からは基本外れている(人手不足のときのみ担当)。
2. 業務、研究内容
”コミュニケーションが全て”
留学した最初の週からpunctureはさせてもらえたが、一番困ったことは患者さんとのコミュニケーションである。不安を抱えてカテ台に横になっている患者さんの質問にうまく応えられない最初の数ヶ月は非常に心苦しかった。留学前からイタリア語を学んではいたが、月に2回程度のレッスンでは高が知れているし、とても会話が成り立つレベルではなかった。”Ciao”, “Buon giorno”, “Grazie”, “Sì”, “No”からの出発、つまりゼロからの出発であった。幸い、自分の一ヶ月前から同じ立場で来ていたブラジル人留学生のGuiがほぼ常に2nd operatorとして入ってくれて、主に患者さんとの会話を助けてくれた。彼は母国語のポルトガル語以外に、英語、スペイン語、イタリア語を流暢に話せる語学の才の持ち主でもあった。運良くFerrarottoの同僚の彼女がイタリア語教師と判明し、イタリア語のレッスンも開始することにした。周りに日本人はおらず、街の人も英語はしゃべらない、という環境が功を奏して、見よう見まねで少しずつしゃべれるようになっていった。それでも難しい問題がここシチリアにはなお存在する。そう、「シチリア語」である。現地の人の多くは、やはりシチリア語を多かれ少なかれしゃべってくる。ミラノの人が聞いても全くわからないというからお手上げである。発音が違う、とか、訛りがある、という次元をこえて、別の言語なのである。ゆえに、シチリア語-イタリア語辞書(正確にはカターニャ語-イタリア語辞書)も大活躍している(写真3)。そのかわり、シチリア語のフレーズを覚えて、適切なタイミングでしゃべったときの効果は絶大である。患者さんだけでなく、カテ室のスタッフ、さらには魚市場の兄ちゃんまで、大喜びしてくれる。それだけ、言葉には「力」があるのである。
留学して二ヶ月で訪れたEuroPCRライブでのIVUSコメンテーター、症例プレゼンなどを無事終え、またイタリア語で教授、スタッフ、フェローと少しずつ会話ができるようになってくると、信頼関係が徐々に深くなっていった。そうすると、教授から学会のプレゼン作成の依頼が舞い込み、SHDIやBVS(生体吸収性薬剤溶出スキャフォールド)の主要プロジェクトにも中心メンバーとして意見を求められるようになっていった。
最初の仕事は、case reportではあったが、CTOの患者にBVSを4本overlapさせて入れ、(“full metal jacket”に対して)”full polymer jacket”という概念を提唱した論文がEuropean Heart Journalにacceptされ、とても嬉しかったのを今でも覚えている。MitraClipのプロジェクトでは、以前外科的僧帽弁形成術が施行された患者で僧帽弁閉鎖不全症再燃時に行うMitraClipの有用性に関する論文がJournal of American College of Cardiologyにacceptされ教授も多いに喜んでくれた。現在、TAVIに関しては、外科的大動脈弁置換術の患者も多く含まれているイタリアのOBSERVANT Registryおよび、イタリア内の主要センターにおけるCoreValveのレジストリーであるItalian CoreValve Registryのデータを用いたプロジェクトに取り組んでいる。